「あーあ、疲れた」
お嬢が仕事を終えて帰宅した
疲れた顔を隠すことすら出来ないほど疲労が溜まっているようで、私の目の前にあるソファーへなだれ込むように横になった
普段からあまり自分のことを話そうとしないお嬢が「疲れた」と口にすること自体驚きだったが、身体的な疲労よりか精神的に何かに参っているように見えた
「お疲れですか?」
「あ、私、疲れたとか言った?」
「言いましたよ、ハッキリと」
「そっか、ごめん」
お嬢は渇いた笑いを漏らしながら傍にあった自分のバッグを片手で漁ると煙草を取り出し火を点けた
私はそんな彼女を自分のデスクに座ったまま横目で見遣る
私は分かっている
お嬢が仕事終わりにわざわざ私の所へやって来るのは、何か嫌なことがあって忘れたい時
とは言っても、彼女は何も自ら語らないから厄介なのも分かっている
厄介ではあるが、迷惑ではない
「お嬢」
今日は一段と酷く見える
私は耐え兼ねて、ソファーの彼女の隣へ腰を降ろした
「ごめんなさい、すぐ帰るからもうちょっと…」
「いや、そうでなくて」
「え?」
「話くらい聞きますよ?」
一人で抱え込む癖はきっと一生直ることはないだろう
だからこそせめて、傍にいるくらいの支えにはなってあげたかった
私の申し出にも彼女は迷っているようで、フゥと紫煙を吐き出してから煙草を灰皿に押し付けこちらに向き直った
「話すと長くなるから」
「それでもいいですよ」
「…いや、やめとく」
「お嬢…」
「あ、じゃあ、一個お願い聞いてくれる?」
結局、疲労困憊の原因は知れないままになってしまったが、彼女は私の返答も待たずに細い腕を廻して抱き着いてきた
「駄目ですよ、見られたらどうするんです」
「いいでしょ、ちょっと胸貸して」
「お嬢」
「見られたら」なんて、小さいことを気にする男だと思われただろうか、と心配したのは一瞬だった
こんな風に甘えられて嬉しかった
嬉しいには嬉しいのだが、恋人同士でもない男女が抱き合っているというこの状況がとても気掛かりなので、ここはもう、私の胸の内を告げることにした
「お嬢、ちょっといいですか?」
泣きたくなったら此処においで
「それ、告白?」
「そうですよ」
「分かりづらい」
「え?そうですか?」