仕事も終えて夕飯の買い物も済ませて、今日はもう家に戻ってきた
さっきまで夏本番といった快晴だったのに、今、突然の豪雨
私はすでに家の中だから良かったが、彼は予定通りに終わればそろそろ戻ってくる時間だ
大丈夫かな?と不安にかられて窓の外を見ていると、玄関から物音が聞こえた



「四木さんっ」

「あぁ理沙、大丈夫だったか?」



彼は、髪から服から水が滴り落ちるほどびしょ濡れでドアに鍵を掛けながら言った
ここまで車で送らせたにしては雨に当たり過ぎているその姿に、私は急いでバスルームへタオルを取りに行った



♂♀



玄関に戻ると、彼は座り込んで靴の中の水をポンポンと叩き出していた
その背中からはいつもの威厳がかけらも感じられず何とも可愛らしかった



「はい、風邪引いちゃうから早く拭いて」

「すぐシャワー浴びる」

「ダメだよ、そんなこと言って結局長々入らないんだから、軽く拭いて…」

「じゃあ、お前が拭け」



言いながら彼は立ち上がってリビングへ歩き出してしまった
床に落ちる水滴を見てため息をつきながら、私は慌ててタオルを持ったまま追い掛けた

そのままドカッとソファーに座ってしまった彼にポカンとしていると、手招きされた

こんな風に甘えたりすることなんてなかったのに、どうしたのだろうと思いながら彼の隣に腰かけて、早く拭けとでも言うように垂れた頭を拭いていたら、徐に含んだ笑い声が聞こえてきた



「いい気持ちだ」

「…?…何が?」

「この空気が」

「空気?変なの」



まだ頭を拭いているにも関わらず、彼はそのまま私の膝の上に頭を乗せて寝転んでしまった
水分の抜け切っていない髪がひんやり冷たい

安心しきった顔であわよくば眠りに落ちようとしている彼を見下ろしながら、やっぱりすぐシャワー浴びないじゃないと心の中で呟いた



「ねぇ、上着は脱いだら?ホントに風邪引くよ」

「いいんだよ、しばらくこのまま」



言いながら彼は私の手を握ると、一瞬目を開け私を見つめて微笑んだ
弱々しく見えたその様子に、私も安心させるように笑顔を向けた

なぜか言いようのない不安に押し寄せられながらも、再び目を閉じた彼の手を強く握り返した



触れ合う指先から溢れ出す




愛してるって言えば良かった


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