「何してんの」
「わっ、リサさんっ」
彼女の部屋に黙って入り込んだ、ある日の午後
別に盗みに入ったとかそういうわけでなく、ただ彼女を感じたかっただけで、僕は彼女がいつも座っている椅子に腰掛けて持ち込んだ本を読んでいた
上に呼ばれてしばらく戻ってこないと践んでいたのに、思いの外早かった
驚いて本を閉じてしまったために読んでいたページが何処か分からなくなってしまった
「不法侵入」
「いや、あのっ」
「次期大老師がそんなことしていいの?」
年上であり、その上央魔でもある彼女に、僕は密かに思いを寄せていた
立場上打ち明けることも出来ない僕は、大抵こういった人間で言う犯罪紛いのことまでして打ち明けられないモヤモヤと彼女を傍で感じたい欲求を満たしていた
ただ今回は計算違いだった
「あんた、ちょいちょい私の部屋入り込んでるでしょ」
「え、なんで…」
「これ」
「あ…」
彼女に見せられたのは、僕のちょっとした忘れ物達だった
数枚の薔薇のカードに古本、小さいものから大きいものまで「何処やったかなー?」なんて思っていた物は全部この部屋にあったらしい
それらをベッドの上に並べていく彼女は、僕の犯罪歴を晒しているも同然なのに何故か表情は穏やかだった
「こーんなに忘れ物してって、気づかないわけないでしょ」
「だよねー…」
「痕跡残しちゃうなんて馬鹿」
「ごめんなさい…」
「それに、コソコソする必要なんかないのに」
僕の忘れ物を丁寧にまとめながら、彼女は小さく溜め息をついた
僕は、もう二度と此処には来れないし彼女にも嫌われてしまった、という後悔と罪悪感と…いろんな負の感情に押し潰されそうで、口をつぐんだまま下を向いていた
でも、「コソコソする必要はない」という彼女の言葉が気になって、そっと顔を上げた
「それは…どういう意味?」
「分からないの?…でも教えてあげない」
「教えてよ」
「別に簡単じゃない」
状況から考えて、マイナス思考にしかなれなかった僕は彼女の好意に気付くことさえ出来なかった
そんな僕に彼女は優しく言った
此処に来るには
あと三回死んでおいで
「冗談キツいよー…」
「非行少年はそのくらいしないと」