「…大丈夫かい?」
サイが見舞うと、シカマルは起き上がろうとしたが、ウッと呻いた。飛段に刺され肩を貫通した千本の傷はまだ癒えていない。その痛みが呼び水となって、疲れはてた脳裏に恐ろしい記憶が甦ってきた。

アスマが吐血し倒れた瞬間。自分の叫び。飛段の狂ったような咆哮。印を結ぶ手が、悲しみと絶望のあまり冷たく痺れてしまったあの時のリアルな感覚――。憎しみと後悔しか生まない映像がどっと押し寄せ、ギリギリと頭が軋むような気がした。

――この肩の……何十倍もの痛みを、アスマは一身に受けて逝った……!
……それなのに…!――

滝の裏から救出されてからずっと、シカマルは、あるビジョンが断片的に再現される自分に苦しんでいた。飛段に、滝の裏で受けた行為や、奴の顔が再現され、それを感じるあの時の感覚が甦り、自身が疼くのだ。憎しみを忘れ快感を貪りたくなる。

――アスマの痛みを、俺は忘れちゃならねえ…!――

掌で顔を覆うようにして呼吸を整えるシカマルを気遣いながら、いいんだ、無理しないで、とサイは言った。と、隣の病室のドアが、ピシャッと閉まり、部屋を歩きまわる音が聞こえてきた。
「…隣、飛段の部屋のようだね。あいつはやっぱり危険だ。…けど任務としては続行だから……特に君は気を付けないと。」
シカマルはサイに手を上げて、分かった、と身振りで伝えた。

隣のドアがまた勢いよく開いて、廊下を走り出す音が聞こえてくる。全く、あの男は気配を消すとかいう意識はないのか。
サイはベッドに腰を下ろしたものの、シカマルを心配そうに見守るしかない自分を歯痒く思った。

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