サイは隊長に従って、シカマルたちを助けに先ほど滝の側に着いた所だった。フーは、激しく飛沫が上がる滝の裏の薄暗い中を進んで、蛙の中から見た辺りに近づいたのに気がついた。
咳き込む声がして、見ると、岩に血だらけの飛段が磔になっており、影縫いに縫われた片方の手首を引き千切らんばかりに抵抗してそこから逃れようとしているのを見つけた。向かいの岩の前には、肩から血を流し、蒼白な顔で印を結んだままのシカマルが、倒れこんでかろうじて息をしていた。サイは、小さく叫ぶと、シカマルに駆け寄った。隊長は、サイの頬が――飛段への、または任務への――憤りで朱に染まったのに気づいたが、無言で飛段の様子を見た。飛段の瞳が、妖しげな色を失い、普通に戻っているのを見、少し眉をしかめた。
そして、ゆっくりシカマルの印を解かせたので、影がススッと消え失せ、飛段がどっと膝を付いた。

サイは、隊長が飛段を担ぎ上げる時に首筋あたりを注視したのを目撃した。サイがシカマルを抱き上げた時にも、先に歩くよう促され、何やら視線を感じた気がしたが、終始無言のままの隊長が何を考えているのか、分からなかった。

ハプニング続きだったその日の演習は、中止となった。
飛段の手首や影縫いされた体は、暗部病棟でまた、繋ぎ合わされた。シカマルは、初めて入る暗部病棟だったが、飛段の隣の病室で、千本の傷の治療や、疲労回復の処置を施されていた。

(…それにしても……)
飛段が、自分を辱しめた行為――あの、執拗に快感を引きずり出すような、強烈な滝の裏の一件――を覚えていないとは。腹が立つやら頭に血が上るやら、訳の分からない悔しさが込み上げる。飛段の口調も、忘れたふりをして、からかってわざと言った感じではなく、本当に知らないようなのだ。自分だけ覚えているなど、情けないではないか。

あの時の飛段は目に妖しい光を湛え、ほとんど話さなかった。
しかし、今は隣からも看護忍に文句を言う声が洩れ聞こえてくる。今の飛段の方が最も飛段らしいと感じる。
なにか得体の知れない術が飛段に巣くっているような気がする。頭がパンクしそうなシカマルは、溜飲を下げるかのように寝返りをうった。

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