サイは、滝壺に消えた二人を追いかけようとしたが、足元の崖が草のせいで解りづらく、おまけにこの雨で滑りやすくなっているのに気づき、少し下がって胡座をかき、得意の巻物を広げた。雨粒が髪から顔や肩を伝い巻物を濡らす。けれどサイの墨は筆に絡み、滲むことなく巻物に造形を生み出した。
「…両生類なら水陸両用で探せる…!」
描き終わった大きな蛙たちを、サイは探索に放とうとした。位置が分かれば助けに行くつもりだった。背後に気配を感じるまでは。
(…行け…!)
蛙を放ちつつ振り向き様に文鎮刀を抜き去ると、キィーン!とクナイで弾かれ、サイは宙を舞って距離を取った。
「悪いね、私だ。」
居なくなったと思った隊長だった。今まで何処に…?と思った途端、
「…サイ、後を頼む。」
と隊長は言い、サイの目の前に飛び込みつつ蛙が跳んでいく方に照準を合わせてババッと印を組むと、思いきりサイに倒れ込んできた。
「…!」
(これは、心転身の術…!…どうして…?!)
隊長の視線の先を探ったサイの目に、最後に滝に飛び込もうとした蛙が、勢いづいてジャンプしたのが映り、サイは隊長を抱き止めながら、仮説を立てた。
(…隊長は蛙に心転身したのか?いや、それが出来るのか僕には分からないけど。…)
かりにも暗部、ダンゾウの側近だ。考えあってのことだろう。それにしてもかなり乱暴な策だ。戻れなかったらどうするつもりなのか。この雨の中、精神の脱け殻となった隊長を放って置くわけにはいかない。後を頼むとはそういうことだったのだ、とサイは理解した。
(隊長が戻るまで、この体は自分が預からなければ…。)
山中一族と組んだことはなかったが、術の発動中は奈良家との連携が欠かせないことは知っていた。
隊長がシカマルと飛段を助けに行ったとして、見つけてどう連れ帰るのか分からない。場所が分かれば自分も助けに行こう。それまでに自分は、洞窟に隊長を運んでおかなければ。サイは隊長の腕を肩に担いで歩き出した。

けれど腑に落ちない。隊長は何故、さっきは姿が無かったのか。そして何故シカマルと飛段が滝に落ちてから現れたのか。飛段にしても、何故いきなりシカマルに仕掛けて来たのか。術で縛られているのではなかったのか…。
サイは結果的に自分も隊長の身柄の保全の為に探索に加われず、ある意味動きを封じられたような気がしてならなかった。

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