「…うあッ!」
飛段の体に衝撃が走った。
医師も相当の手練れなのだろう、術は無事発動した。鎖を引きちぎらんばかり暴れる飛段を、満足気に医師は見ていた。
抵抗しても、無駄だった。下半身が、だんだん熱くなってくる。飛段は目を瞑った。
(…こ、この、感覚は…何なんだ……いやにリアルじゃねえか……なんでこう、体が欲してる……?クソ、ゾクゾクする………!!やべえ………!やりてえ!!!)
飛段の脳裏に角都が浮かんだ。だがその途端、冷静になる自分がいた。
(…角都…!…こんなとこ早く脱出して、探さねえと!!)
飛段は術に悶えているふりをしながら、ありったけの力で手枷に付いている鎖を引っ張った。鎖の輪が少し弛んだ。医師はまだ何か術をかけようと、背を向けて禁術の巻物を物色中だ。
一本の鎖さえあれば、こいつを呪い殺せる。
診察台に付いている鎖の一つを捻り取り、その切り口で手首を傷つけ血を床に垂らした。手枷に付いた鎖は音がしないよう体の下に敷いた。そしてもう片方の手枷の鎖の輪をこじ開ける。
足枷は、重りさえ足で引き摺ればなんとかなる。
体をずらし、診察台から降り、床の血で儀式用の円を少しずつ描く。まだ医師は気づかない。
手枷に付いたままちぎれた、唯一の武器になる鎖をジャラッと引寄せ、医師の後ろ頭に狙いを定める。ヒュッと風を切った鎖が、医師の叫びを伴い、血だらけになって飛段の元に戻って来た。その血を舌でジュルッと舐めとる様は、術の効果で上気した飛段の顔を一層淫らにみせた。
(…貴様も、終わりだ。ふん、何をしたか知らねえが呪い殺してやるぜ。)
診察室にある、太い千本を手にすると、円の中で儀式モードになった飛段は、それをごっそり、自分の心臓にぶっ刺した。
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