薄い雲が流れて再び月が出た。

地面に伸びる自分の影、月明かりにぼやけたりはっきりしたりする、その影すら、得体の知れない物のような気がする。疲れきって冷えた体には時々震えが走り、それは影が、自分の意識外で暴走する前兆のように思える。

猛り狂う自分の影に襲われ、飛段にしたことを思い出したシカマルは、急に口元を押さえたかと思うと、ゲホゲホと咳き込み、膝を付くとウッと吐いた。

「大丈夫?!」

サイが気遣うと、シカマルは

「…影が………効かねえ……」

と、ポツリと言い、そのあと繋ぐ言葉を失ったように押し黙った。茫然自失の寸前で、なんとかして自分を保とうとしているようだった。

着替えを貸したサイは、丈の短い上着を無造作に羽織ったシカマルが、その下に着ている鎖帷子だけは絶対に脱がないのに気づいた。

抑制の効かない影術、飛段との行為、額に一瞬浮かび上がった呪印。防衛心も働くというものだ。

サイは考えた。

(今の時点で、隊長は何処かへ連れ去られ、この二人は既に関係を持っている……。まったく、普通じゃない。)

暗殺部隊は、何があってもツーマンセルになるまでは任務続行だ。
隊長不在時の隊長代行は、Sランク任務経験値順で決まることをサイは知っていた。正規のSランク任務数は、シカマルよりも自分の方が上であるのは明確だ。飛段は抜け忍のため論外、死なないのだからランク外としていいだろう。

それに、実際のところ、今隊の中で唯一マトモだと言えるのは自分しかいない。
隊長代行は自分が務める、とサイは心の中で決めた。




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