サイはなにも言わずに虎をけしかけ、飛段を取り押さえた。クソッ、またこいつかよ、と飛段の喚く声がする。
「……探したよ……」
サイは少し脚を引摺りながら近づいてきた。シカマルの甲冑の肩ヒモに何かがついているのに気づき、観察する。蟲のようだ。
(……そういえば、そこに転がっていた死体が、蟲遣いだった…。)
サイがスッと手を伸ばし、肩ひもの蟲を取ろうとすると、シカマルは体を固くした。しかしすぐに、観念したようにため息をついて、サイに言った。
「……いつから……そこに………?」
サイは、ついさっきだよ、と言い、これ、付いてたよ、と蟲を差し出した。
「……蟲……油女の、?…………」
サイは、改めてシカマルの服装を見て、巻物を出してボン、とまた何かを取り出した。
「……着替え。……怪我はない?………シカマル……」
シカマルは複雑な思いが爆発しそうだったが、顔を上げられず、無言で受け取った。
飛段には服を投げてやった。飛段は、気が利くねえ、と言って受け取り、虎から這い出すと改めて自分の体を点検した。すでに傷口が塞がってきている。
「……はああ、復活早っ!」
サイは飛段をチラと見たが、すぐにシカマルに視線を戻した。
(暗部の帷子がぼろぼろになるほどの影縫い………。術をかけてからの性行為………。そして蟲……。………関連性はあるのか…?
蟲の術の中でも、蟲を媒介した虫媒術というのを聞いたことがある。主に花街で使われるものだ。
確か原理は……虫を媒介して受粉することを利用して……特定のターゲットをマーキングし、誘い込めるということだったっけ。)
ーー飛段は蟲遣いと交戦したとして……その時蟲を付けられたのではないか。術者は死んだが、蟲がシカマルに付いてマーキングされ、誘われるように関係を持った。ーー
サイはハッとした。
(まさか、これが……禁術?
でも、禁術はシカマルがかけると言われていたけど………)
その時、…この服短くねえ?!……と叫ぶ飛段の声が聞こえた。
「……あ、それは僕の着替えだから。」
サイの答えは涼しげで、突っ込む暇を与えなかった。
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