デイダラが起爆粘土の作品を投げるその数分前。
サイは、この任務前にチェックした、シカマルが病室で書いた任務報告書の記述を懸命に思い出していた。
飛段については、湯隠れからの指名手配の欄には名前があったが、暁の構成員というところまでで、ビンゴブックには術などは詳しく書かれていないのだ。
唯一、応戦したシカマルの報告書だけが頼りだった。
「…奴の体の色が変わった!」
「けど、陣形は、まだ描かれてねえ!まずは拘束、動きを封じ込む!」
「分かった!」
サイは巻物をシュルッと広げ、目にも止まらぬ早さで大蛇を描き出し、飛段を押さえ込もうとけしかけた。シカマルはその隙をついて影真似で飛段を捕らえ、手をパッと開いて千本を落とさせた。落日の微かな光にキラッと反射して、千本は地上の薄闇の中に消えていった。
「ググっ…!……ヤロー」
飛段の呻き声に、シカマルは印を結び直した。
白骨が浮かび上がった黒い肌部分が影に縛られて黒くなってゆく。墨の大蛇も完全に飛段の足元をとぐろで巻き上げた。
その時烏が、倒れたままのフーの肩にバサバサと飛んできて、カアー!、と鋭い鳴き声を上げ、羽をバタつかせた。烏の周りの空間がねじ曲がり、フーがズズッと大きな渦に吸い込まれたように見えたが、次の瞬間パッと消えてしまった。
「…隊長!」
「くそっ!どうなってる?」
(あれは、神威?…以前見た、カカシさんのに似てるけど…)
サイはカカシの必殺技を思いだし、もし今のが神威のような次空間忍術なら、フーが何処へ飛ばされたか知るのは至難の技だと思った。
その時、
「てめえら、縛んの好きだな!何もしねえから早く解いてくれよほんと!」
という、飛段の能天気な声が聞こえた。まだ死神の様相を呈している。シカマルとサイは拘束を緩めなかったが、ゴゴッという空気の振動と、下からパアッと眩しい光がさした途端、ドオンと爆発音がして、大鷲は墨のように流れ、皆まっ逆さまに木の葉の黒い森に落ちていった。
その頃、地上では。
「アートだなあ、うん。……何振り返って見てんだ、トビ。次、次!サスケ探せよ、うん!」
「ハイ、分かりましたよ先輩!早く探して爆発させてやりましょう」
デイダラとトビは歩いて何処かへ移動していた。口調は後輩らしくしているが、頭では違うことを考えていた。
(……フン、まあ、いい献体が手に入った。カブトが献体献体うるさいからな。しばらくは俺の次空間で預かるとしよう…)
トビは面の中で一人ほくそ笑んだ。
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