投げたのは飛段だった。
狙いは外れ、烏は空を舞った。
飛段はスタスタと二人の前に出、烏を探すが、付かず離れず飛んでいるのを見、
「……当たんねえか!」と言った。
「…隊長がいるんだぞ!?あの烏ん中に!」
シカマルが吐き捨てるように怒鳴った。飛段はシカマルに構わず、黙ったままゆっくりと踵を返した。
手にはまだ数本、千本を持っている。
「!」
サイは、自分の脚の武器ホルダーが開いているのに気づいた。確かさっき、戦闘中にもーー隊長の考慮で、飛段に武器は持たさないことになっているーーあの時は、飛段が暁に向けて投げたのが分かっていたのだが。ホルダーをつけているのは千本を刺した右脚だ。痛みのせいで、気づけなかったのか。
(…違う……止血する前後だ…。しまった…!)
飛段は手の中の1本を、スゥッともう片方の手で取った。そして傍らで未だ戻らず倒れているフーの胸元を、躊躇なくグサリと一刺しした。
「飛段!」「てめえ、何し…!」
二人は叫び、影縫いと蛇を仕掛けた。
飛段は素早く刺した千本を引き抜くと、跳んだ。大鷲の尾の辺りに降り、千本から滴り落ちる血の滴をジッと見つめる飛段の瞳は、ほの暗く光を湛えていて不気味だ。
沈んでいく紅い夕陽を背に、飛段はゆっくりと、舌で、千本のフーの血を舐めとった。
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