鹿丸は玄関の方を見た。二重扉は閉まったままだが、確かに音がした。
あの二度のベルは鹿狗からの極秘の合図だ。

意味は、

―逃げろ!―

(飛段が風呂入ってるタイミングで!?)

鹿丸はそう思いながらも冷静に最短で奴等を車に乗せる手筈を考えた。

外で言い争う声がする。落ち着けよ、と言う鹿狗の声も微かに聞こえる。

鹿丸は座敷の角都のベッドを裏口に回し、飛段の脱ぎ散らした衣服を紙袋に突っ込むと、風呂場に飛び込んだ。
飛段の、貴様!という口を押さえつける。シャワーがあらぬ方向に向きを変え、鹿丸のシャツを濡らした。


「…逃げるんだ…!」

バスタオルを押し付けながら鹿丸は飛段に言った。

「追っ手が玄関まで来てる。早く!」

その声音と眼差しから事の重大さが分かる。
全裸にバスタオルを巻いた飛段と、透けたシャツの鹿丸は、重症の角都の両脇を抱えて、ガレージ兼竹林の、外から見えない裏口から、車に乗り込んだ。



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