飛段はまた何か柔らかいものを踏んでベッドに上がった。
痛!という寝ぼけ声がして、そこに鹿丸が寝ていると気づいた。
「…あ、わりぃ…鹿丸」

飛段が謝ると、鹿丸は寝ぼけて頷いた。飛段は俯せに寝転んで、鹿丸を見た。薄暗い中で見る彼は疲れ切って口を半開きに開けて寝ている。これがNo.1の男の寝顔か。

あの医者がゴーグルをせずに玄関に出迎えてくれればすぐ分かったかもしれないが、ここが鹿丸の実家だったとは。鹿丸の名字が奈良であることも初めて知った。

「……飛段」
名を呼ばれ、見ると、夢を見ているのか鹿丸が寝言を言っている。

「………どこ行った、飛段?」

寝言で自分の名を呼ばれるのは悪くない。むしろ少し笑ってしまう。

だが鹿丸はまだ探しているらしい。

「……早く……こっちだ、…!」飛段、飛段、とうるさい。

手が虚空を掴んで、鹿丸はうなされている。

ちょっと気の毒になった飛段は鹿丸の手を握ってやった。

鹿丸は安心したようにしっかり手を握りしめ、むにゃむにゃと何か言いながら寝てしまった。


飛段はベッドに俯せたまま、左手だけを鹿丸に預けながら、物思いに耽った。

(俺たち、ホスト……だったっけなあ?
もうあそこには戻れないけどな、俺は。)

しかし、自分がしてきたことを考えると、ここにも長居は出来ない。

その時、廊下を誰かが歩いて来る音がして、飛段は手を引っ込めようとした。
が、鹿丸が離さない、
(離せ、バカ!)
手を振り切ろうとブンブン振ったが、鹿丸は離さない。
戸が静かに開いて、鹿狗が入ってきた。






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