鹿狗は片付けをして、飛段のベッドの横に布団を敷き、鹿丸を転がした。
座敷の方を見て、角都が寝ているのを確認する。
まさかこの男を二度も助けることになるとは。鹿狗は感慨深げに角都の寝顔を見つめた。


一度目は、金目当てで家に押し込んできた強盗に、抵抗した鹿狗が殺られそうになった時だった。
出てくるな、と言い渡して吉乃と鹿丸を奥の部屋に隠していた。
その時、その強盗をターゲットにしていた角都が家に乗り込んできた。二人は互角に戦い、角都が仕留めた。強盗は完全に気を失っていたが、力押しのタイプだったので、角都は腕を折られていた。鹿狗の医者魂に火が着いた。


あの時は、大学病院を辞めて、開業したばかりだった。
患者側に立たない病院と対立し、反骨精神だけで必死にやっていた時代だった。
だが、命を落としそうになって、危ない稼業の男が計らずも命を助けてくれたことは、鹿狗の価値観を正当化するきっかけになった。


「…座れよ、すぐ、骨を接いでやる。」

「…いや、治療される理由がない。」

「…あいつを仕留めて俺を助けてくれただろう。あんたが来なけりゃ、俺は死んでた。家族もな。」

堅気じゃねえなら名乗らなくていい、と言うと、角都は指環を外し、印鑑代わりにカルテに押したので、手術が始まった。
途中で彼が名乗ったが、名字がなく、通称だと認識した。
その名前は、鹿狗が書いて、後でやはり消すことにしたのだが。

(家族分ならまだ借りは返せてねえんだぜ。)

鹿狗はフッと笑って、自室に退去した。



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