あまり遠くから彼を見ることがないが、雑踏で見る彼はやはり目立つ気がする。

見目好いためか、すれ違った女性が振り返る様子が見てとれた。


その時客が鹿丸の腕を優しく引っ張ったので、彼は営業用スマイルで客の腰を引き寄せ、客の見立てたブレスレットを合わせながら、彼女に微笑んだ。




その夜の店内はまた、いい案配にほろ酔いの客たちの嬌声で満ちていた。


「飛段クンたらどうしたの〜?
頬にバンソウコウなんて
やだぶたれたの!?
誰に!?妬けるわ」

「いやー違う違う
ヘマしたんですよ甘いモノの食べ過ぎで!
まさかの吹き出物!
シャンパンコールしたら治りそうな気がするんだな、これが!」
「…またァ…!うまいんだから〜」

そんな会話が飛段のテーブルで交わされているのが、ウィスキーの水割りを今夜の同伴客――先程ブレスをプレゼントしてくれたお得意様――の為にサーブしていた鹿丸の耳に聞こえてきた。


客が自分以外に視線が行くことを良く思わないだろうことが分かっている鹿丸は、客にグラスを手渡し、隣に座りながら客の肩ごしにホールを見回した。


きらびやかなシャンデリアの下で客と談笑する飛段の右頬には確かにバンソウコウが貼ってある。


「…!痛ッ…何すん!…」
「…アハハハハ…ごっめーん!
ドンペリ入れるからッ」
「や、やりぃ!」

右頬を大袈裟に押さえているところを見ると
客にバンソウコウをはぎ取られたらしい。
まあそのおかげもあってドンペリを入れてもらえたのだから店は大いに盛り上がった。

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