飛段はアジトと壁との濃い影の中に潜み、アジトの裏口を窺っていた。一人の男が出てきて、タバコをふかしている。見張りというより休憩という感じだ。
バイクは、深い緑の木立の中に、目隠しにちょうどいい茂みを見つけて隠してきた。見張りが表側の入り口に二人いるのは確認済みだ。
(…明日の正午、か。だが、決行は今夜だ。)
弾はある。だが、病院で拉致された為、スーツのポケットに入る分の最低限の装備しかしていない。途中で拝借したスパナが役に立てばいいが。
とにかく、角都をこっちからかっさらいに行くのだ。
角都の拘束が一瞬でも解かれる時を狙わなければ。
さっきから目の前にいいカモがタバコをふかしている。飛段はニヤリ、と笑った。
「…鹿丸さん…」
鹿丸は刑事に名を呼ばれているのにハッとした。
「…大丈夫ですか?…」
「…ハイ、」
声に抑揚がない。大丈夫だろうか。
明らかに顔色の悪いこのホストは、他人が脅迫された件でここにいる。
警察も動くには理由が要る。飛段がただの一般市民でなく事件の容疑者かもしれない、そして囚われている者がいる。充分な理由だが。
「…引き続き情報収拾します。どんな小さなことでもいいので、地図の文字でも、何でも、思い出したら教えて下さい。それと、」と刑事は言った。
「…明日は、申し出られた貴方にもご同行願いますが、大丈夫ですか?」
鹿丸は無言で頷いた。
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