車は暗い湾岸沿いを走っている。

運転の男が一人、見張りの男は後部座席に一人、飛段の横にピタリと張り付いている。
腹の傷跡に銃を突きつけられていては、逃げられない。
ご丁寧に、この車は運転席と後部座席の間に仕切りがあった。
それが今閉められている、ということは…

銃を突きつけた男が、飛段に覆い被さってきた。

(ほらな、ったくどこまでも救いようのねえ奴等だ。)
飛段は相手を蔑んだ。

(俺を拉致って連れてく前に先にヤッちまうとか、浅はかさにヘドが出る。お前らみたいな雑魚にヤラれるほど俺は落ちぶれちゃいないぜ。
こんなもの、少し応じてやりゃあすぐに俺のターンになる。)

飛段は、待って、と優しい声で言い、相手のベルトに左手をかけた。
相手に馬乗りになり、右手で髪を掻きあげた飛段の、マゼンダ色をした好色そうな瞳が見下ろしている。胸の筋肉の隆起や、均整のとれた体つき、そして整った顔立ち。それが自分から行為に及ぼうとしている。さすがに見張りはデレた。

湾岸高速から下の道に入ったようだ。
速度を落として走る車に入ってくる外の明かりが、窓に貼られたフィルム越しに飛段の髪を銀色に浮かび上がせている。
瞳が薄暗い車内で妖し気に光り、色気を放っている。

ジッパーを下ろされ、白い指がトランクス越しにまさぐり出した。雑魚の興奮は押さえ切れないようだ。もう、握っている銃さえ、銃口はあらぬ方向を向いている。

馬鹿め。

飛段は、左手を動かしながら、右手で銃を秘かに構えた。

手に力を入れ、ソレを潰す勢いで扱き、ドン、と男の心臓を撃ち抜いた。

雑魚は、だらしない格好で、死ぬ間際に銃をぶっ放した。
後部座席の片方の窓ガラスは粉々に砕け散った。
その割れる音が止む前に、飛段は運転手の頭をぶち抜いた。

ガードレールをガリガリ擦って、車は停まった。幸い後続車はいない。

(いけね。車使えねえ。…こんな血みどろじゃ、な。

ま、どこかに転がってるだろうよ、車なんて。)

飛段は車を降り、暗い夜道を歩き出した。





夜中。
さすがに無法者たちも飲んだくれて、正体を失っているのだろう。
今夜は私刑はなしか。破傷風にならない程度ならまだ我慢できるが、フラストレーションを暴力で晴らすのだからたまったものではない。あちこち、煙草で火傷させられたり、殴られた跡が、見えないが痛みとしてある。

角都は緩んできた目隠しの隙間から、辺りを見た。
敵のアジトは、かなり頑丈な造りの建物のように見える。

(飛段……お前が来る前にここを脱出して、と思ったが、かなり難しい。

お前に何かあったら、俺は生きていけない……。

逃げろ。俺のことはいいから、奴等の手が届かないところに逃げてくれ。)

角都は飛段の笑顔を思い出していた。

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