「…鹿丸さん」

鹿丸が店で客と他愛ない話で盛り上がっている時、飲みキャラの一人が跪いて鹿丸を呼んだ。

警察が来ているらしい。

営業スマイルでテーブルを離れると、裏口に回る。
そこに、あの刑事が待っていた。

「…お仕事中にすみません。心当たりがないかと思って。」

「…何かあったんですか?」

「…飛段さんが……居なくなりました。

病院の監視カメラには二人連れで出ていく姿が映っていました。」

――二人連れで出ていった?

夕方まで病院にいたらしいのですが、云々という刑事の説明は急に聞こえなくなった。
頭が分析モードに入ったらしい。

――誰と出ていったんだろう?

飛段は1人であの場所に行くつもりだったんじゃないのか…そんな気がする。一計あると確かに言っていた。
期限は迫っているから予断は許されないが、誰と出ていったのか。昔の仲間ならいいのだが。

それに、相手がどういう輩なのか、もとより飛段が分かっているとは到底思えない。
それに金はどうするのだ。飛段も相当稼いでいるが、あれだけの金額を用意できたのか。いや、無理だろう。
普通、脅迫された場合、警察に届けなくては素人ではどうすればいいのか分からない。

もし金を用意してないとして、それが分かれば、何をされるか分からない。

「…鹿丸さん。捜査に協力して頂けませんか。
知っていることがあったら隠さず教えて下さい。
飛段さんはホテル以来、狙われ続けています。
あの事件の証言者でもありますし、
警察も迷宮入りは避けたいので…。」

「…それに。」刑事は言葉を切った。

「もしかしたら、彼は被害者であると同時に…容疑者かも知れないんです。」

裏口から見えるネオンの海が瞳に映る。
この海をもがきながら、あの指環の主を助けに行っているアイツがいる。

そんな映像が浮かび、鹿丸の胸の奥がズキンとした。
今まで感じたことのない痛みだった。

それが何なのか、分からない。飛段だから俺の胸がそうなるのだ。多分。


(俺も行かなければ。

親父の恩人の為ではなく、飛段の為に。)

「…分かりました。ちょっと待っていて下さい……」

鹿丸は眩しく見えるが実は暗く深いその海を見ながら言った。


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