次の瞬間、鹿丸は背中を壁に押し付けられていた。
気づけば飛段の左手が鹿丸の動きを封じるように壁に伸び、右手はどこからでも殴れるようにダラッ、と下に垂らされていた。

「…貴様」

ドガッ…

飛段は壁を拳で叩いた。老朽化した煉瓦のクズがパラパラと落ちる。

「何嗅ぎ廻ってんだ……まだ懲りねぇのか!」

「…俺にも……知る権利があるんだ。」

身がすくんだが、恐怖を気取られまいと、鹿丸は答えた。
やはり暴力には慣れてない。

飛段の表情が『???』と全く訳が分からない顔になった。

はぁー?!そんなもんねーよ!と飛段はあきれ果てた顔で天を仰いだ。

「…俺はたまたま、今日、お前を助けた。だから、教えろよ。」

たまたまだ、たまたまだろ!と飛段は言い返す。
壁ドンの脅しも、なんか今日のこいつには効かねぇな、と思いながら。

「……お前なーー」

飛段がかぶりを振ったので、銀髪がザッと鹿丸の目の前に降りてきた。

「…もう関わらねぇって自分から言ったろ?!」

そう言って上げた顔が近く、鹿丸は顎を少し引いた。
飛段のピンクの双眸が夕日の反射を受けてキラッと光るのを、憑かれたようにじっと見てしまう。

綺麗な色だ、と思った。

しかしすぐツッコむ自分がいた。
殴られるかもしれねえ状況で何言ってんだ!普通思わねえよ…

飛段は、といえば、こんなに近くで鹿丸の顔を見ることなどなかったのだが、
案外鹿丸の一重瞼の下の瞳が表情豊かなのを面白そうに見ていた。
眉や、すっとした鼻、賢そうな顔立ち。ふーん、と飛段は口の端を上げる。

近すぎて居心地が悪くなった鹿丸は飛段から目をそらした。

今日の飛段は相変わらず拳に物を言わす感じだが、あの時のような怒りは感じられない。その代わり、ちょっとだけ、この状況を面白がっているように見える。


「……もしかして」

飛段がグッと顔を寄せてきた。

唇が鹿丸の耳元に触れるか触れないかの所で、飛段は囁いた。


「俺が、好き、…なのか?……鹿丸、……センパイ?」



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