その頃、鹿丸は実家から仕事場に向かっていた。

ここ数日の劇的な出来事によって、頭はパンクしそうだったが、日常は追いかけてくる。
また飛段の客や、自分の客を満たし、金を稼がなければならない。
多分飛段の客とは、淡々と接することしかできないが。

鹿狗の恩人の角都という男のことを、自分がどうすべきなのか、その判断はなかなかできないでいた。


信号が赤になり、人々がゆっくり立ち止まる。
すると、横断歩道の向こうに、飛段に良く似た男が立っている。

飛段のマンションが、仕事場に近いこの界隈にあったことを、鹿丸は思い出した。


信号が青になり、すれ違う時にその男を見ると、見覚えのあるスウェットを着ている。鹿丸が見舞いで持っていったものだ。
紫がかった銀髪、深い赤紫の瞳、どこからどう見ても飛段だった。

何してる、と言いたいような、そ知らぬ振りをしたいような、
そんな気分で、結局無視して通り過ぎた。


許可をもらって病院から出てきたのか、よく分からないが、勝手にすればいい。


その時、あまり風貌の良くない男たちが、「…アイツだな。あの銀髪。…」と話しながら、鹿丸の横を通り過ぎた。

ハッとして振り返ると、その男たちは飛段の後ろに付いて行っているではないか。

悪い予感がする。

信号が点滅している。


鹿丸は自分が弾き出した答えに従った。

逆走、したのだ。

渡りかけた横断歩道を。

飛段の元へ。



ーー畜生!なんで走っちまうんだ!なんで!

あんな、非道いこと平気でする奴なのに!

なんで俺は走るんだー!畜生!!ーー


そう、自問しながら。



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