(…カクズ……。


ちょ、…名を名乗る代わりにって言ったくせに、名前書いてあるじゃねえか!!


いや…、親父は嘘八百並べる男じゃねえ。)

鹿丸は考えた。

鹿狗は、相手が名乗らないというなら、自分も聞かない。そんな男だ。細かいことにあまり頓着がない。
大事なのは、命を助け、怪我を治療することなのだ。



(……ってことは、本名じゃねえってことか。

通称みたいなもんか?でも、通称でもその世界じゃ知られてそうだけどな。

だから消したし、極秘にしてた。



…親父ぃ…。こんなことしておいて、アイツは名乗らなかった、俺は知らねえ、って、シラを切るんだろうな。


全くめんどくせー!)


考えてみれば、カルテ未記入で手術するなど普通はしない。

『来るもの拒まず』が信条の親父が、保身のために、ヤバい人間のカルテだけは別にしておいたのだろう。




…で、俺にどうしろと?


鹿丸は、小さくため息をついて、記録を閉じた。




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