次の日、正確には昼すぎだが、鹿丸が起きると、鹿狗は往診に出かけたのか居なかった。

鹿丸は、冷蔵庫から冷茶を出し、飲んだ。欠伸が止まらない。

どっと居間に寝転がる。

庭に日が当たり、池に反射した光が天井にキラキラ写っている。

昨日のことが、悪い夢のように思えた。


今まで、飛段とどう付き合っていたかさえ分からなくなるほど、昨日の出来事は衝撃的だった。

自分は飛段から元気をもらえると思っていた。
面白いことを言って和ませ、バカみたいに笑ったりするくせに、決めるとこは決めるような潔さがあり、自分にはない魅力があると思っていた。

だが、今それを思い起こしても、ピンとこない。
昨日の飛段こそが、本当の飛段だ、としか思えない。

自分の心が閉じてしまったんだと、鹿丸は思った。



ふと見ると、居間のテーブルに、何かおいてある。


それは、鹿狗の極秘カルテだった。閲覧禁止、と書いてある。

あるページが開いていた。

「…親父ぃ…閲覧禁止じゃないのかよ…」


それは、一人の男の手術の記録だった。

上腕を骨折したレントゲン写真や、記録が残っている。

書いた名をペンで塗り潰して消してある代わりに、印がーーーあの封筒にあった印が押してある。

鹿丸はカルテの裏側から、その塗り潰した部分を、光に透かして見た。


そこには、角都、という名前があった。


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