部屋から医師たちが出てきた。鹿丸を見つけると、あまり長居をしないように、と念を押された。
ノックをして部屋に入る。
飛段は器具を装着され、ベッドに延びていた。だが、目だけはギロッと鹿丸を見た。黙って、というか呼吸器を付けているので話がしにくいのか、手だけ鹿丸のほうに突き出して、
か、え、せ、!返、し、や、が、れ、!!!
ジェスチャーで返せと言ってきた。イラついているのが分かる。
鹿丸は手紙と封筒を差し出した。
クシャッと引ったくると、飛段はまた鹿丸を見た。
見たのか、と問われた気がする。鹿丸は首を縦に振った。
艶のない銀髪はフン、と顔を背けたが、
「…忘れて…くれ。」と小さく言うのが聞こえた。
もう敬語を使う余裕もないのだと思った。
動くのがままならない時に脅迫されるなど、最悪だ。
「…脅迫状じゃねえか、これ。警察に相談…」
と鹿丸が言いかけると、
やおら起き上がった飛段の左手が、鹿丸の胸ぐらに掴みかかった。
襲撃されてからこっち、いちいち飛段が暴力的すぎる。
リミッターがハズレかかっているような危うさを鹿丸は感じた。
呼吸器を自分で外したらしい。荒い息が耳にかかる。
さっきのスタンドは飛段の右側に置いてある。
それを飛段が確認した気がした。
奴の右手があれを握ったら最期、俺は殺される、と鹿丸は思った。
「…余計なこと…すんじゃねえ…」
「…金は……ッ…、どうすんだよ…」
「…お前には関係ねえ!…これ以上…なんか言ってみろ、…」
右手が、スタンドを掴んだ。
その気配を感じて、鹿丸は目をつぶった。冷や汗が流れる。
もう、ホストとしての飛段をそこに見ることはできなかった。
鹿丸の知らない、もっと危険な飛段がいた。
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