鹿丸はシャワーを浴び、だるい体を湯船に投げ出した。
白い額に水滴がはじけている。閉じた目の下の隈は、ここ数日のハードワークを物語っている。
事件のことは、警察も裏社会の抗争が原因と見て、あまり多くのことは報道されなかった。
飛段の居ない理由はオーナーが伏せてうまいことはぐらかしていたし、キャストのミーティングでは、アイツの抜けた穴は、俺たちで埋める、とかなり強気で今週が始まったのだった。
そう簡単にはいかないと覚悟していたが、
アイツは、飛段は、埋めるに余りあるとてつもなくデカい存在だったということが、分かった。
遠くから見ていて、鹿丸もいいなあ、なんて思っていたの、という客や、銀髪もいいけど、黒髪もたまんないわ、という客、
来た客はみな、イレギュラーな指名ができるとあって、結構楽しんでくれたのだが、見送りの時にキスをせがまれるのすら、まるで客側は浮気しているかのようなシチュエーションでいるから、変な気を遣ったりしてどっと疲れるのだった。
永久指名制は、やはりよく考えられたシステムだと鹿丸は思った。
場内指名で回ることによって、鹿丸は今までよりもずっと、飛段の仕事ぶりを意識するようになっていた。
もとから、俺たちはタイプが違う。
髪の色も、瞳の色も、顔の造りも、
アイツは派手で、俺は地味すぎる。
アイツが店に入ってきた時、とにかく容姿が目を引いた。
その華がある様子で、面白おかしくバカな話で盛り上げたり、持ち前のセクシーさで攻めてみたり、そこが飛段贔屓を増やすことになるわけだが。
飛段の客に指名されると、つい最初の共通の話題として飛段ネタが出てくる。客に愛されている証拠だ。そんな客が続いて、鹿丸はこの数日飛段のことばかりが頭に浮かんでくるのだった。
本当は重症で入院、と知っているのが、オーナーと自分だけなのも負担だったのかもしれない。
面会謝絶だから見舞いにもいけてない。どれくらい回復したのかも分からない。
こんなに疲れると、あのバカみたいな軽い喋りが恋しくなる。
自分も多分、飛段欠乏症にかかっているのだと鹿丸は思った。
(今から行こう。病院に。アイツに会いに。)
鹿丸は湯船から上がると、立ち眩みをものともせず、急いで髪を乾かし始めた。
会えなくても構うものか。
いや、会えないなら会うまでだ。
今晩乗り切るだけの飛段を、俺にくれ。
お前のバカ笑いを、俺にチャージさせてくれ。
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