鹿丸が煙草をふかすほんの数分前。
ボーイが部屋に入ったまま、まだ出てこない事を、護衛の男はおかしいと思いはじめた。最中にシャンパンをサーブするのはやりにくいだろうが、知ったことではない。
主は闇金融で人の恨みを買っている上に趣味が普通ではない。
外に出ろとは言われたが、常にカードキーは預かることになっている。
護衛はドアにキーを差し込み、慎重に中を見た。ベッドルームはまだ見えない。
少し進むと、主が絨毯の上に伸びているのが見えた。
護衛は銃を構えて進んだ。
かすかな気配に、角都は振り返りざま、仕込んでいた銃で護衛を撃った。打撃音はしない。
撃たれた護衛はバランスをくずしながら銃をやみくもに撃ち、倒れて動かなくなった。やはりサイレンサー付きなのか、音はしなかった。
「飛段!」返事がない。
角都は急いで飛段に駆け寄った。
シーツが血で赤く染まっている。こめかみからも血が出ている。角都は動転した。
「飛段!!」
うっすら目を開けた飛段は、角都、と力ない声で言った。
「…やっちまった………
角都…あんたは行かなきゃ……怪しまれる……
き、救急車………こいつらと病院に……だから…後で…
…てく…れ…」
「分かった、もう喋るな」
角都はすぐ行動を起こした。救急車を呼んだのだ。
「ターゲットは俺が必ず換金してくる。必ず、迎えに行く……」
飛段の額に唇を押しあてながら、自分を奮い立たせた。
(待ってろ……飛段…)
それだけ言うと、角都は断腸の思いでターゲットを引きずり、非常階段へと向かった。
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