「契約違反だ」

飛段は角都が何か言う前に言った。

「……」角都は黙って手錠を外しにかかっていた。

「…こいつ、こんなモノ俺に嵌めやがって!」

角都は一つ外れた手錠を持ってきた袋に放り投げた。

「いい眺めじゃないか、とか言わないのか?」

角都の手が止まった。

「…言ってほしいのか…?」

怒気を含んだ声音に飛段は調子に乗りすぎたことを悟った。

もう一つの手錠に飛段を残したまま、部屋に散らかった飛段の服や携帯を片付け始めた。

なかなか手錠を外してはくれない。怒ったのかもしれない。

俺が最初にドジったから……飛段は少し反省した。


「…角都、俺、」

「…すまん。……遅くなった。」

背を向けたままで角都が言った言葉が、飛段をふわっと包んだ。

「…角都!俺がもっと上手く立ち回ってれば、」

シャンパングラスを片付けようとした角都は、ふいに飛段を抱きしめた。

(角都……!)

「…お前は悪くない。」

角都は飛段の唇を奪った。シャンパンが飛段の口から溢れ、喉を濡らす。

「祝杯はもっとマシなものであげるべきだな。」

角都は照れ隠しなのか、もっともらしいことを言って手錠を外した。

飛段は恍惚となりながら思った。

(…俺にとっちゃこれよりマシなもんなんてねえよ、角都)

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