飛段は男があがる前に行動を起こした。
おそらく付近で待機しているはずの角都の為に、ドアを開けるーーー。1歩歩いた途端、後ろからものすごい力で肩をつかまれ、飛段は絨毯の上に倒された。
覆面の男に組み敷かれている。肋骨が折れそうだ。
「金だけ盗ってずらかろうと思ったのか。甘いな。仕事は最後までしてもらう。」
( ヤバい。連れが部屋に潜んでやがった…のか?
まさか。ならキーは何故フロントにあった?……
ターゲットがキーを…こいつに渡せる訳ねえ。
廊下に放って、こいつが回収した…ってんなら……!…
……そんな……マジかよっ……!)
「……!グハッ…」
飛段は咳き込んだ。演技ではなく、本当に息が出来なかったからだ。
肋骨を庇うようにもがくと、さすがに殺してはまずいと思ったのだろう、男は立ち上がった。
とっさに飛段はうつ伏せになり、さとられないように咳き込みながら、ジャケットの胸ポケットの携帯を探る。1を押し、呼び出し音がなる。ワンコールで切った。
(…角都…!中からは開けられねぇ。プラン変更だ…)
「逃げなければ何もしない。部屋から出ようなどと思うな。」
男はそう言って、飛段を無理矢理立たせ、コートやジャケットを引き剥がし、ベッドに突き飛ばした。
そこへターゲットが浴室から出てきた。連れの男を見て顔をしかめている。
「おい、まだいる気なのか?お前はもういい。外に出てろ」
「いえ、私は護衛を…」
そういう部下の言葉もきかず、ターゲットは飛段に言った。
「…君もシャワーを浴びてきたらいい。」
頷いて、バスルームに入り、できるだけゆっくり服を脱ぐ。
鏡に映った胸元が赤く、動くとズキズキする。
――「ドアが開けられたら連絡はいらない。
何か起こったらワンコール鳴らせ。分かったな。」
角都の耳打ちが甦る。
――角都……俺はこっちの世界で生ぬるくなっちまった。
部屋に潜んでる奴に気づかないなんて。
ここからは胆すえていく。あんたが来るまでうまくやるよ。――
飛段は熱いシャワーを浴びた。
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