鹿丸は女と最上階の部屋から夜景を見ていた。

灯りは控え目、薔薇の香りが部屋を満たしている。

シャワーを浴びてバスローブのまま、シャンパンを女のグラスに注ぎ、優しく肩を抱きながら話をする――基本アフターはほとんどしないが、貢いでくれる客には応えるのがホストだ。


それにしても先ほどのロビーでのことが気になる。

――飛段は何の為に男と会うのだろう。
時間も遅い。
引き抜きか、トラブルに巻き込まれていたら。

そもそも、何で俺は飛段のことを気にするのだろう。

明日あいつがNo. 1になるかもしれないこのドライな世界で……。


夜景がキラキラと動いている。眠らないのだ。この街は。



「恋でもしちゃった?」

女が呟いた。

鹿丸が何か言おうとすると、

「私は付き合ってもらってるって分かってる。

だからほんとに誰かに恋したなら、言わないで……ずっと騙しててほしいの。」


鹿丸は女のグラスを優しく取り上げた。

(今日は特別な夜にすると約束したのに俺は最低だ。)

黙って女をベッドに押し倒し、耳許にキスをして囁いた。


「それなら誰にも言わないで。俺が貴女に恋してること」


「鹿丸…」女は嬉しそうに鹿丸を抱きしめた。

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