そんな角都の顔を思い出しながら、
飛段は男と二人でエレベーターに乗っていた。
男は飛段を一目みるなり、頬に赤みがさしたが、コートの襟でそれを隠すようにし、カードを手渡して来た。
カードのように見えたそれは、表向きは企業の名刺のようだが、実は今回のターゲットのために角都が作ったものだった。
男にしか興味の持てない男のための高級斡旋倶楽部の会員証なのだ。所詮ターゲットを狩るための偽物、小道具に過ぎない。先ほど会員証で男が標的であることは確認済みだ。
最上階につき、飛段は静かに男に従い部屋へ入った。
男は飛段をじっくり見た。品定めするようにゆっくり視線が動く。時々感嘆したようにため息をもらすのが少し面倒くさい。
男が伸ばしてきた腕を優しく払って、
「先にシャワーを…」と飛段が言うと、男は頷き、コートを脱ぎ、そそくさとシャワールームに消えていった。
ちょろいものだ。
あとはドアを音もなく開け、角都がくるのを待てばいい。
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