飛段の連れの男はコートの内ポケットに手を入れた。
キーなのか銃なのか、手探りする微かな金属音がした。
男は何かを耳打ちして飛段の元を離れ、ロビーを横切り姿を消した。
何故か分からないが、鹿丸は、飛段にここで顔を合わせない方がいいような気がした。
何なんだろう。
高級ホテルで待ち合わせにしては、飛段の服装が変わっている。派手にする必要はないが、もう少し洒落っ気があってもいいのに、わざと印象を薄くしているかのように地味である。
それに出ていった男がどうも怪しい。
鹿丸の第六感はそう告げていた。
――何かあったら困るな。店のこともあるし。
そう思う自分を、建前を並べているようだと思う。
この数日の言動から、自分の知らないNO.2の一面を垣間見た気がしてならない。
今、完璧にホストのオーラを消した、別人のような飛段を見ている。自分がストーカーになった気分だ。
飛段が少し移動してロビーのソファに座った時、誰かが飛段を見つけて声をかけた。
先ほどの男ではない、という所までは分かったのだが、その時、
「行きましょ…鹿丸」
女が鹿丸の手を取ってエレベーターに乗り込んだ。
「エスコートし忘れないでよね」
女は飛段に気づかなかったらしく、二人きりのエレベーターで鹿丸をハグした。
「ごめん、じゃあここから始めよう」
鹿丸はそういうと女の唇をキスで塞いだ。
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