過去外伝4 鹿丸


ホストクラブのオーナーに辞めることを伝えると、飛段に飛ばれて、かなりイタイ所に、No.1のお前が辞めたらツートップを失い、店の存続が危うい、とまで言われた。

しかし飛段が居なくなってから、頭角を現してきた者がいるし、若手は育っている、と鹿丸は反論した。

「…君が何を目指すかは知らないが、ホスト業界から足を洗って、マトモな職業に着いた奴を、俺は見たことがない。」

それは百も承知だ。医者になれる保証はない。
必死に免許を取っても、その世界から拒まれるかもしれない。

だけど、今しかない。

俺がこの世界から足を洗うのは、医者を目指す気持ちが再燃した今をおいて他にない。どんなに反対されようと、諦めたら道は閉ざされる。

ここが、鹿丸の正念場だった。




その日の店が終わり、夜中の3時過ぎに実家に帰ってきた鹿丸は、昨晩の、庭で月を見上げて肩を震わせていた鹿狗を思い出し、鹿狗のこの数年の重責に思いを馳せた。

(いい加減、おふくろとよりを戻して欲しいしな……。)

おふくろは離縁されて怒っていたけど、鹿狗の病院に来る患者は身元が怪しげだし、借金取りに脅されたりしないか、鹿狗は相当心配していた。
本当は、親父がおふくろを護る為に実家に帰したのだと、吉乃も分かっているはずだ。

(…親父が思うより、おふくろは強え女なんだけどな。肝っ玉も座ってるし。)

もう先に休んでいる鹿狗の携帯がホルダーで光った。
あのストラップが付いている。

この2ヶ月、店で、車で、とにかく何処にいても、飛段のことを思い出さない日はなかった。

飛段が当たり前のように頬にキスしてきたことで、分かったことが二つある。
あれはあいつの日常茶飯事、つまり外人がよくハグしたりキスするような、そんな感じだということ。
そしてそれを、俺の頬はそうは感じなかった、ということ。この温度差は何だ。

とにかく、鹿丸がキスしたいと思った男は、飛段が初めてだった。どうかしているのは確かだ。なんというか、人として感極まった為にあのような暴挙に出たのだ、と自分に言い訳しているが、本当は違うと分かっていた。

あの男の存在がそうさせたのだ。

角都という、飛段の相方。

手術の終わった角都の心臓に耳を当て、呆けたように心音を聴く飛段の親密度は、普通ではなかった。何だろう、あの…一線を越えた感じは。あの時は必死だったから、突っ込む余裕もなかったが、ハグや挨拶のキスではない、それ以上のコトをする関係が絶対ある!と鹿丸の第六感が告げていた。

飛段が、最高の相方だというあの男と、言葉を交わした時。そして彼を気遣う飛段を見た時に鹿丸が感じたものは、軽い嫉妬だった。


あの二人は、自分の知らない過去も、現在も、そして多分未来をも共有するだろう。それが羨ましかった。
そして、俺は飛段の相手にもならない。

会えなければ忘れられる。次に誰かに恋したら忘れられる。時に委ねるしか、今の鹿丸に解決策は無かった。


#飛ぶ#=ホスト用語。
客がツケで飲んで、音信不通になったり店に来なくなり、飲み代が回収できないこと。未収分はホストの自腹となる。この場合は引用で、連絡もなく飛段がホストを辞めたこと。

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