過去外伝3 鹿狗

鹿狗は、ある晩遅く、また息子がフラッとやってきたのを見て、何か話があるのだろうと察していた。

鹿丸は相変わらず店のNo.1で稼いでいたが、あれから2ヶ月経って、鹿狗の口座に振り込まれた金が、あの二人の手術代を差し引いても余りある金額で、おかげで保証人として被った借金の返済も目処が立った、と鹿狗が電話で伝えたことが関係しているのかも知れなかった。
鹿狗が後片付けして廊下を歩いていくと、鹿丸が居間に正座して鹿狗を待っていた。

頭を下げて、鹿丸が言ったのは、鹿狗がいつかは聞くだろうと予想していた言葉だった。


「……親父。ホストを辞めさせて下さい。」


今度は、鹿狗が頭を下げる番だった。


「………俺の借金の為に、今まで苦労かけたな、鹿丸。すまなかった。」

鹿狗はそう言うと、鹿丸が頭を上げてくれ、というまで動かなかった。

「もう、返済の為に必死になって稼ぐ必要はねえ。好きな仕事に就いたらいい。本当にありがとな。」


「……親父の反対を押しきってホストになったのは俺だ。また、我が儘言うようで申し訳ないんだけど、」

鹿丸は居ずまいを正すと、こう言った。

「…親父のような医者になる為に……復学させてくれ。」

鹿丸のその言葉は、鹿狗の心にグッとくるものだった。情けないが、泣けてくる。鹿丸に、私立の医大の中退を余儀なくさせたのは、一重に親である自分の責任だった。保証人にさえなっていなければ、多額の借金の肩代わりをすることもなかったのに、と何度悔やんだことか。吉乃に半殺しの目に合わされながらも、無理やり離縁して実家に帰し、鹿丸の将来をダメにした自分を責めながら、けれど返済の為に必死で生きてきた。

「……親父の背中をずっと見てきたから、これからの道が定まった気がする。

親父……あん時、あいつらを……救ってくれてありがとう。
俺、あいつら助けることも、酷い怪我を手術することも、何にも出来ないのがもどかしかった。

親父はやっぱすげえって思ったんだ。

また、苦労かけるかも知れねえけど、今度は国立大の医学部狙うから。
……おふくろを……呼び戻してやってくれ。」

鹿狗は言葉が出なかった。居間から立ち上がって、草履を履いて庭に出るのが精一杯だった。
こんなにも情けない親父の泣き顔を、見せられる訳がない。

(…鹿丸。ありがとな。
お前は今までの俺やお前を、否定しないで生きてくれた。それで充分だ。

けど、吉乃……怖えぇなあ……まだ怒ってるか、嬉しい顔するか、まあどっちにしろまた半殺しにされるな…。)

月が、同情したかのように優しい光を鹿狗に投げかけていた。


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