鹿丸はしばらく運転席に座って、二人の消えた朝の街を見ていた。
携帯の電源を入れて、家に電話する。

鹿狗が出た。

鹿丸は、今から帰る、とだけ言って、電話を切った。



後部座席に飛段が巻いていたバスタオルが置いてあった。

あの紙袋の中を飛段は見ただろうか。

奴の服、銃はもちろん入っているが、現金を少しだけ入れてやった。

(…いつの日か、またどこかで、過去の稼業から足を洗った飛段に会いたい。

俺も、ホストを過去にする日が来るかもしれない。

飛段、命は大事にな…。)





飛段と角都は、その頃、上空30000フィートに居た。

角都が紙袋の中を見て、飛段、と言った。

「…金が入ってるぞ。」

角都の言葉に飛段は、俺のだろ、と言ったが、違うようだ。

見ると札束が入っている。

「くーッ!あいつ気が利くな!」

「…さすがはエレチューの男だな。」

飛段は顔がひきつった。

「…角…都…あれは…」

不可なんとか、なんだ!と言いたかったが、鹿丸が何と言っていたか忘れてしまった。

「いいんだ。あいつの報酬だ。」

と角都は飛段を抱きしめた。

「…助けられてばかりですまん。…お前が無事で良かった。」

その声音は優しかった。飛段は角都の胸に顔を埋めた。

「…角都…俺にも報酬…」言い終わらないうちに角都は飛段に口接けた。

優しく、強く、もっとゆっくり…

辺りの客はみな、早い便なので寝ている。気兼ねはいらない。


飛行機の窓から朝日が差して、眩しく二人を包んでいた。



(完)

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