飛段が乗り込んできてドアを閉めた。
鹿丸が、行く先は?と聞くと、返事の代わりに飛段の手が伸びてきた。
「…何…!」鹿丸は少しビビッた。
「鹿丸。恩に切るぜ。」
頬に飛段の柔らかい唇を感じた。信じられない。顔が熱くなる。
「…キ…キス…お前…」
「…馬鹿、照れんな、挨拶だと思え!」
そして飛段はじっと鹿丸を見つめて言った。
「ここまででいい。お前をこれ以上巻き込む訳に行かねえ。」
飛段のその瞳は、明けていく空の色を映した美しいマゼンダ色で、
鹿丸はその言葉にも瞳にも、嘘を感じなかった。
―――もう、本当にこのドライブも終わりだ。
そして多分、これから先、飛段に会うことはない。
そう思うと、切ない。俺の前から、飛段が居なくなる。
「…逃げ切れるのか?」
「…誰に言ってんだ。」飛段は笑った。
鹿丸はたまらず、グッと身を乗り出し、少し怪訝な顔をした飛段の唇を、キスで塞いだ。
「…!…き、貴様…?!…」
「…馬鹿、テンパるな、エレチューだと思え…」
エレチューだと!営業でよくやるキス…ってか、ここはエレベーターじゃねえ!車だろうが!と叫ぶ飛段をギュッと抱きしめる。
「…元気でな」
飛段はポンポン、と鹿丸の肩を叩いて「…お前もな」と言った。
#エレチュー# ホスト用語。エレベーターの中でキスすること。
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