「かっこええよなぁ」
「うん」
「ほんまかっこええわ。神童やわ」
「…アンタ神童の意味わかって使うてんの?」
「神のワラベやろ?」
「…うん、そうやねんけど」
「あぁー、かっこええ。溶けそうや。謙也くんなんか目やないわ」
「おい!!人の彼氏になんて言い草や!!」
「しかも本人がおる前で!!」
「あ、謙也くんおったの?あれ?部活始まってるみたいだけど…」
窓際で財前を見ながら、視線も向けず真琴は謙也に言う。
「俺とお前は今日日直や!!」
「そうやっけ?じゃあ黒板消してきてよ」
「お前が行けや!!」
「…スピードスターならガタガタ言わずに行けや。やれや。うちは今忙しいねん」
「…クッスン…お前の親友グレてへん?」
「財前くんが絡むといつもあんな感じやで。触らぬ神に祟りなしや」
冷たい仕打ちに謙也は彼女に泣きつくが、彼女はさも当然というように言った。
「…そんなに財前が好きなん?」
「あたりまえや!!この世に財前くんより男前な奴なんかおらん!!」
何気なく聞いたのだが、思ったより熱のこもった返答をされ、謙也は一瞬引いた。
「そ、そうか。じゃぁ…財前呼んだるわ」
「え…?ちょ、まさか…!!」
「ざっいぜーん!!!!」
「ぎゃー!!!?こ、こっち向いた!!」
謙也は大声で、にこにこしながら名前を呼ぶ。
真琴は謙也の隣で、青ざめたり真っ赤になったり大忙しだ。
本人は振り返り校舎に視線をさまよわせ、やがて謙也を捕らえた。
「何ですの」と言いたげな顔で校舎を見上げる。
「コイツなー、立野真琴!!俺の彼女の親友やねん!!」
「ちょ、何言うてん謙也くん!!」
「え?接点持たせたろうと…」
「アホぉ!!露骨すぎや!!うちはなぁ、財前くんが拝めればそれでええねん!!誰が財前くん呼べ言うたんや!!余計なことすんなや!!」
「…お前案外ウブなんやなぁ」
さっきの偉そうな態度はどこにいったのやら、真っ赤な顔をして財前には聞こえないよう小声で謙也を責める真琴に、謙也は笑った。
「放置プレイっすか?」
下からの声に、二人はやっと財前がいたことを思い出した。
二人揃って窓から乗り出す。
「す、すまん財前!!」
「帰りにぜんざい買うてくれたら許したりますわ。あと、謙也くんに言われんでも知っとります」
「なんがや?」
これには、真琴も謙也と一緒に首を傾げた。
「立野真琴、3年2組23番。帰宅部。好きな学食のメニューは牛スジどて焼き。趣味は音楽鑑賞、主にロック。その割にはゲロ甘な恋愛小説好き」
「ぎゃー!!」
何で知ってんの!?と真琴は上で悲鳴を上げた。
「ほんまなん?」と謙也が聞くと、親友であり真琴をよく知っている謙也の彼女は「ほんま」と肯定した。
真琴の顔はもう、真っ赤だ。
ずっと見つめてきた財前が自分のことを知っていて、細かい情報も知っていた。
そりゃ、軽いパニックだろう。
「俺やって真琴先輩のこと見とるんです」
財前は真琴を見上げ、笑った。
普段見せない財前のその顔は、不敵で、挑戦的で、何よりかっこよかった。
真琴が倒れるまで、あと3秒。
END
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