自分で言うのも何だけど、私は青春してると思う。
毎日行きたいと思えるクラスがあって、休みなんていらんって思える部活がある。
しかもマネージャーとして支えている我がテニス部は全国大会出場の常連校。
頑張ってる皆を支えられるなら、炎天下でドリンク作るのも、風が冷たい中タイムを計ってるのも苦じゃないなんて思える!!
あーこれで、私にメロッメッロに甘い彼氏がいてくれたら最高なんやけど。
部活終わって待ち合わせて、「ごめん、待った?」「いや今来たとこ」とか言いたーい言われたーい。
「…真琴先輩、聞こえてますわ」
「…ほんま?」
気が付くとランニングから帰ってきた財前がいた。
息を切らしているものの、しっかりした足取りで私の前を通りすぎる。
どうやらさっきの恥ずかしい妄想は全部口に出ていたらしい。
「財前が一番とか珍しい」
「漫才ダブルスがやらかして、ランニングになってへんのですわ」
「うわー、白石大変そう。しかしその状況をほっぽりだして帰ってくる財前もさすがやな」
「おおきに」
「いや、褒めてへんからね。うん」
「褒め言葉ですやろ」
遠まわしに酷いって言うてんのに、それが褒め言葉とかどないやねん。
そう思いながら記録ノートを開き、ノートに財前のタイムを記録した。
自分のタオルを取ってきた財前が、再び戻ってきて私の後方にある壁に背中を預けて立つ。
「さっきのですけど」
「…あれは忘れて。特に最後の方」
「あれはお願いされても忘れられませんわ。まさか真琴先輩があんなこっぱずかしいこと考えてたなんて」
したたる汗を拭いながら、財前は意地悪く笑った。
くそう、よりによってこんな面倒な奴に弱みを握られるなんて!!
悔しさに顔を歪めると、財前に「そんな顔して睨んでええんですか?」としたり顔で言われた。
「お願いです財前様、お代官様。何でも言うこと聞きますから誰にも言わないでください」
「そうですか?なんや悪いですわぁ」
自分でそう言わせるように仕組んだんやろ!!と叫びたくなるのを必死で堪える。
財前がうっかりあれを言ってしまったものなら、面白いもの好きのこの学校では瞬く間に広まってしまうだろう。
それだけは、それだけは絶対に避けたい。
いや、避けなきゃ明日学校に来れない!!
今まで以上に意地悪く笑った財前は、壁から離れて私の方に歩いてきた。
すれ違いざまに、耳元に口を寄せる。
「じゃあ、部活終わったら昇降口集合で」
「…え?」
どんな無理難題、もしくはどれだけ善哉奢らされるのだろうかと思っていたら、意外に拍子抜けな内容だった。
自分より背の高い財前を訝しげな視線で見上げる。
その視線を受けて、財前は笑っていた。
「…そんなんでええの?てかどっか寄るとこあんの?」
「いや、特に」
「は?じゃあ何で?」
「だってそれが青春なんでしょ?」
財前はさらっと、今までにない爽やかさで言った。
その言葉でようやく行動の真意がわかり、驚きのあまりフリーズしそうになる。
さっきの妄想が頭の中で反芻した。
“部活終わって待ち合わせて、「ごめん、待った?」「いや今来たとこ」とか言いたーい言われたーい”
「ちょ、財前…!!」
「じゃぁ、そういうことで」
「財前!!どういうこと!?」
私を無視して歩き出した財前を追いかける。
あと少しで手が届くというころで、不意に財前が振り返った。
「あぁ、俺が『いや、今来たとこ』って言う方なんで、真琴先輩が後に来てくださいね」
今度こそ、驚きすぎて動けなくなった。
END
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