「そんなことより先輩」
「ん?」
「おらん人やなくて、目の前におる人も気にかけてくれません?」
ベンチに腰掛けたまま、財前は真琴を覗き込むように真琴を見上げた。
不意に真琴の手を取り、自分の方に引き寄せる。
財前の端正な顔がすぐそこにあり、真琴の心臓は跳ね上がった。
竦んで身を引いた真琴に、財前は不敵な笑みを浮かべる。
「おらん人のことなんて埒が明かんことやなくて、自分の置かれた状況を考えてください」
「わ、私の置かれた状況…?」
「そうです。今は…」
「……今は?」
財前の眼差しに、真琴は思わずごくりと喉を鳴らした。
「あの漫才コンビの暴走を止めることを考えてください」
「…へ!?」
財前の言葉に真琴はテニスコートを振り返れば、テニスコートを舞台に一氏と小春が漫才ショーを展開していた。
二人とも南国がなんや!!と言わんばかりに南国ビーチをイメージされる衣装を身につけている。
あきらかに白石たちへの嫉妬だ。
「ユウく〜ん、捕まえてごらんなさ〜い」
「あはは〜この〜待ちいや小春〜」
「小春ー!!一氏ー!!またあんたらか!!」
いつの間にか休憩中の部員を観客に、漫才コントを始めている二人に真琴は怒鳴った。
白石というストッパーがいないせいで二人は調子に乗り、部員たちは腹を抱えて笑い転げている。
その二人に向かって、真琴は怒りながら駆けて行った。
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