最近イケメンと知り合った。
名前は沖矢昴さん。
東都大学工学部の大学院生だ。
彼との出会いは近所のよく行くスーパー。
野菜のワゴンの前で悩む彼に、美味しい野菜の選び方を教えてあげたのがきっかけだ。
プライベートで知らない男性…しかもイケメンに声をかけたことには自分でも驚いている。
職業柄困っている人を放っとけなかった、ということにしたい。
その後も彼とは活動時間が合うらしく、何回か出くわして世間話をしていた。
彼についてわかっていることは、以前住んでいたアパートが火事になってしまい、知り合いの家に居候していること。
隣家に子供が集まるらしく、その子供たちの相手をたまにしていること。
調理の加減がわからなくてついつい量を作りすぎてしまい、その隣家におすそ分けしに行くこと。
そう物腰柔らかに微笑みながら話してくれた。
彼は私の癒しだ。
たまにスーパーで会う、年下の大学院生。
料理好き、そして知的でイケメン。
なんていい響きだろう。
それだけで十分満足だった。
その気持ちは本当だ。
「七井さん…?」
「お、沖矢さん!?」
だから事件現場で出くわしたときは、たいそう驚いた。
だって出動要請が出た事件現場に、まさかいるとは思わない。
「ど、どうしてここに?」
「いつも話している子供たちが、今回の事件に巻き込まれましてね…」
「え!?あの子供たちってコナン君たちのことだったの!?」
沖矢さんの話を聞く限り、やんちゃな子たちだとは思っていた。
だがまさかそれが少年探偵団の子供たちだったとは…と驚く。
そういえば沖矢さんが以前住んでいたアパートは米花町2丁目だった。
なんということだ、阿笠博士の家の近所ではないか。
その事実に今更気付き、自分の洞察力のなさに落ち込んだ。
私、刑事なのに。
「七井刑事と昴さんって知り合い…なの?」
ふと気がつくと、コナン君が私を見上げていた。
心配そうな、そしてどこか探るような視線を向けられる。
「ええ…。家が近所で、スーパーでよく会うの」
コナン君の身長に合わせるように、少し身をかがめて答える。
コナン君は「ふーん」と曖昧な返事をしたあと、今度は沖矢さんの方を見上げた。
「昴さんは、七井刑事が警察の人だって知ってたの?」
「はっきり聞いてはいませんが、候補の中には入っていましたよ。職業を聞いたときに公務員と言ったきり深く話したがりませんでしたから。公務員でそういう人はたいてい警察の方でしょう。刑事さんだとは思いませんでしたが」
理系の大学院生にしては鋭いとは思っていたが、色々見抜かれていたらしい。
やばい、私って刑事失格かも、とまた落ち込んだ。
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