夏の島は楽しかった。
オープンしたてのホテルはきれいだし、ビーチはホテル客専用。
しかもプレオープンなので出資者や関係者が多く、お客様は品の良い方ばかり。
つまり私がたちの悪い男性客にからまれて、安室さんが助けに来る、なんてシチュエーションはなかったわけだ。
園子ちゃんだけはこのシチュエーションを楽しみにしていたらしく、たいそう悔しがっていた。
ただ安室さんに水着を褒められたり、それを園子ちゃんに冷やかされたりするのは…とても恥ずかしかった。
もう、本当に恥ずかしかった。
もうこういうところにはみんなで来ない、そう心に誓った。
そう、夏の島のバカンスはおおむね快適だった。
だがそれは、部屋割りを聞いた瞬間に一変する。
「えええ!?私と安室さんが同室!?」
「なに驚いてんのよ!恋人同士なんだから、当然でしょ〜!」
園子ちゃんのにやけた顔を見て、しまったと後悔した。
旅行の前から、ホテルの部屋が2部屋用意してあるとは聞いていた。
そこで私は、当然その2部屋は男女別に分かれるのだろうと思い込んでいたのだ。
私と蘭ちゃんと園子ちゃん、そして安室さんとコナン君という具合に。
そう思い込んだのがいけなかった。
なにしろ旅行の前から安室さんと園子ちゃんの様子がどこかおかしかったのに、こんな悪企みが仕組まれていることに気付けなかったのだから。
その事実に、私は脱力するしかなかった。
「入らないんですか?」
うなだれている私に、安室さんは言った。
その顔はとても愉快そうに笑っている。
というか、ちゃっかり私の荷物を持って、どの口が言ってるんですか。
それはどんなに私が抵抗しても、最後はその部屋を選ぶことを確信しているようだった。
その通りなんだけど、いまいち釈然としない。
そしていまだに入室をためらっている私に、安室さんがとどめを刺す。
「千佳さん」
「…なんですか」
「僕と一緒は嫌ですか?」
そう聞かれれば、嫌だとは言えなかった。
→Bに続く
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