「不安ですか?僕が何もしゃべらないから…」

そう問われ、肩がびくりとゆれた。
衣擦れの音と共に、安室さんの腕が私を抱き込む。

「不安じゃないとは…言えません」

正直にそう白状する。
そんな私の反応に、安室さんは「そうか」と呟いた。

安室さんと付き合って、もう長い。
ただの探偵ではないと薄々感づいていたが、そろそろ目を背けるのにも限界がきたらしい。
そんな機微に、彼も気付いてしまったのだろう。

「でも、言ってくれないんですよね」

「すまない…」

安室さんはそう吐き出すと、いっそう私を抱く腕の力を強めた。

それは安室さんなりのけじめなのだろう。
今まで何回も危ないことに巻き込まれても、怪しいと思うことがあっても、私に真実を明かすことはなかった。

それが安室さんのプライドなのか、明かせない都合があるのかはわからない。
でもその事実に安室さんも葛藤している、そう感じられた。

「今やっていることが終わったら、必ず君に真実を告げる。それまで待っていて欲しい…」

消え入りそうな、らしくない言葉だった。
しかしそれは安室さんの心根からの気持ちだと、物語っているように聞こえた。

「わかりました。…待ってます」

その言葉に、安室さんが息をつくのがわかった。

不安でたまらない気持ちが落ち着いた訳ではない。
ただ彼が待っていてと言った。
その気持ちが嘘ではないと信じれたから、待つしかないと覚悟を決めただけだ。

「千佳…」

腕の力が緩み、名前を呼ばれる。
腕の中から顔を上げると、優しく微笑む安室さんがいた。
心は晴れたらしい。
そういう笑顔だった。

「千佳…愛してる」

「私も、愛してます」

互いに愛を囁くと、どちらともなく唇を寄せた。
はじめはついばむようだったものが、だんだんと激しいものに変わって行く。

酸素不足で喘ぐように訴えると、安室さんは唇を離してくれたが、その唇は別の場所へ移動していった。

どうやらそういうスイッチが入ってしまったらしい。

今晩は激しくなりそうだな、と翌日の寝不足を覚悟するしかなかった。



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