『結良、元気かー?』

あまりにも緊張感の欠片もない声に、拍子抜ける。

こちらは普通の生活を装いながら心労を重ねていたのに、待望の連絡だったのに、温度差がありすぎて怒りが沸くほどだった。

「この馬鹿野郎!!今まで何してたの!?」

『うお!結良ちゃん落ち着いてー、落ち着いてー』

「落ち着いてられるか!なんで連絡してこなかったの!?」

『いやー、こっちも色々あったんだって。聞いてよ俺さ、あのあと――』

中野がふいに言葉を切ると、電話の向こうで中野ではない誰かがしゃべるのが聞こえた。
何やら言い争ってるようだ。

『いいかげんにしろ』とか『ほっとけ』とか『任せられない』など切れ切れに会話が聞こえてくる。

「あの…中野君?」

『間宮結良さん、ですよね?』

焦れた結良の問いに答えたのは、中野の声ではなかった。
中野とは対照的な、冷静で低温な声。

「はい、そうです…」

『落ち着いて聞いてください。僕は永井圭です』

「永井圭…?」

聞き覚えのある名前に、結良は首をひねった。
そしてその人物の正体に気付く。

永井圭、国内で2例目に確認された亜人。
佐藤が襲撃した亜人研究施設から脱走した亜人だ。

「あなたと、中野くんが一緒に…?」

単純に驚いた。
別れて数週間しか経っていないのに、中野は他の亜人と接触していたことに。
しかも佐藤と関わりのある亜人と、だ。

『話が早くてよかった。あなたにとある頼みごとをしたい。
電話では言えない内容なので、会ってくれませんか。
僕と中野と、深町さんの3人で』

その提案に、結良は息をのんだ。









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