「とりあえず家に帰ろうぜ」
「そうだね。服も髪もぐっしゃぐしゃだし」
そう提案したのは彼だった。
かろうじて廃ビルから逃げ出し、駅までようやくたどり着いたときだった。
とっくに日は暮れ、駅に見える人影もまばらだ。
「番号教えてくれ、連絡するから」
「連絡って…何を?」
「んー、佐藤をどうするか相談」
「どうするって、たった2人で?」
まずいと思ったときにはもう遅かった。
決して悪気はなかったのだが、感じの悪い言い方になってしまい、気まずい雰囲気になる。
お互い黙り込んでしまい、無言でスマホを操作する。
連絡先を交換しあうと、彼から念を押された。
「いいか、俺が連絡するまで何もするなよ」
「うん」
「ぜってー佐藤を、止めようぜ」
「うん。絶対連絡してよ、勝手に一人でつっぱしらないでね」
「しねーよ」
「約束だからね」
「ああ、ぜったい守るよ」
そう言って、彼――中野攻は結良の前から去っていった。
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