「先生て彼氏おるんですか」
「…はい?」
唐突な財前くんの質問に、思わず目を瞬かせた。
数学の小テストの採点中、準備室にズカズカ入ってきた財前くんは、そこらへんの椅子を持ってきて私の隣に座った。
非常に行儀悪く。
ちゃんと座りなさい、今採点中よ出て行きなさい、と一回は言ったもののどちらも正す気はないらしく、上の質問に続く。
唐突すぎる質問に、赤ペンを持ったまま固まってしまった。
「な、なんでそんなこと聞くの?」
「興味」
「…あっそう…」
財前くんの意図を探ろうとして、一言で片付けられてしまった。
「で、おるんですか?」
やはり引き下がらない財前くんに、どうしようかと考えを巡らせる。
そして私は何をトチ狂ったのか、こう言っていた。
「…どっちやと思う?」
そうきましたか、と財前くんは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「そおやな…四天宝寺に赴任する前はおったんとちゃいます?おおかた同じ教育実習生で、そんときはお互いを励ましあって喜びも苦しみも分かち合うみたいな感じやったけど、教師になってから何となく疎遠になり、現実に負けて別れた…ってとこっすか」
「な、何でわかんの!?」
興信所で調べたんじゃないかってくらい言い当てる財前くんの読みに、あからさまにうろたえる。
そんな私に、財前くんは笑った。
「天才っスから」
「…さ、さよか」
その自信といい、その観察眼といい、恐るべし財前光。
動揺のあまり吹っ飛ばしてしてしまったペンを、顔を引き攣らせながら屈んで取る。
ペンを拾って顔を上げると、財前くんの顔がすぐそこにあった。
「うわあああ!!」
驚いて急いで飛び退いたが、それより早く腕を掴まれ、それを止められた。
さらに、腕を引いて引き寄せられる。
勢い余って近づきすぎた顔に、再び動揺が走った。
「ちょ、財前くん!?」
女子生徒に騒がれているだけある顔のドアップは、近くで見るには刺激が強すぎた。
カッと頬が熱くなり、とたん身動きが取れなくなる。
「なら、先生は今フリーやんな?」
「え?あ、うん…」
間近でまともに視線がかち合い、緊張して返事一つしか返せない。
「ほんなら、俺と付き合うてくれません?」
「はあ!?」
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