大人であり子供であるあなたの

犯罪みたいだ、と足立さんは笑った。犯罪?と訊ねると、足立さんは私の制服のスカートを少し持ち上げて「犯罪だなぁ」と、また笑う。どことなく嬉しそうで、そして、楽しそうな足立さんだから私も嬉しくなる。けれど、(私、もっと早くに生まれたかったよ。足立さんと同じ年がよかった)口には出さずに、黙って足立さんを抱きしめる。
足立さんは私に抱きつかれると、いつも体がふるえる。抱きしめられること、に慣れていないのかもしれない。そのまま足立さんをきつく抱きしめる。そうでもしないと、どこかに行ってしまいそうな気がした。時々、そういう不安に駆られることがある。足立さんに言うと、きっと笑うだろう。なまえちゃんは変なことを言うなあ、って。
「……今日ね、駅前でナンパされたの」
足立さんの体に額を押し付けながら喋る。守られているみたいで、私はつよく抱きつく。
「なにそれ」と、足立さんは笑う。乾いた笑いに、ぞわっと背筋がなにかを駆ける。
「私は友達と、一緒でね……。でね、男の人は、私に見向きもしないの」
「どうして」
「子供っぽいからだって。言われちゃった。君、可愛いね子供っぽくて、って」
足立さんが私の背中を優しく撫でる、子供をあやすみたいに、優しく撫でている。
「足立さんから見た私は子供?」
そう訊ねると、足立さんは私の頭を優しく撫でて、
「今日はやけに甘えただね、どうしたんだい」
私は足立さんを見上げる。足立さんの表情は何とも言い難い。微笑んでいるようで、笑っていない気もする。この人の笑顔はこわい、なんにも考えてなさそうだから。
「どうもしないけど…」
「うんうん、そっか」
足立さんは頭を撫でていた手を私の頬にすべらし、唇を指でなぞった。大人ってずるい。そう思いながら私は目を閉じる。足立さんはまだ唇をなぞってくる。目を開けると、足立さんは意地悪く笑っていた。
「…足立さん、からかってる?」
でも、そんな足立さんの顏が私は好きだ。もっとひどいことをされたい、とひそかに思う。口にしたらどんな反応されるか怖くて出来ないけど、私はたしかに望んでいる。この人が望むのなら、なんだってしてあげる、してあげたい。
「なまえちゃんが可愛くてね」
何か言い返そうとした時、足立さんの顏が近付き、唇が触れた。
「子供だったら、こんな事しないよ」
足立さんはずるい。



この子がもう少し早く生まれていてくれたら、こんなに後ろめたく思わなかっただろう。
何より、高校生と付き合う社会人というレッテルは物凄く恥ずかしい。俺は人一倍世間を気にしているのだ。その世間が社会がどんなにイヤでも、この世界に生きる以上従わなくてはいけないのだろう、と苦笑する。どれだけこの世界が醜くてくだらなくて、しょうもないものだとわかっていても、世間の目が自分の中にあるうちは気にしてしまうのだ。
それでも、こんなに可愛く俺を信じてくれているこの子は、大切にしてあげたいなあ。
(そうは思っても、たぶんきっと出来ないだろうなあ。)

後ろめたいと思っていても、その後ろめたさが楽しいのかもしれない。なまえに抱きしめられながら思う。
この子はよく俺を抱きしめる。そのたび、自分が何者かわからなくなる、気がする。そして何も知らない子に抱擁してもらえるほど、綺麗な人間じゃないよと、諭してあげたくなる。本来なら、俺とこうしているべきではないのだ。もっとちゃんとした人間と付き合うべきだ。たとえばそう、アイツとか。あんなに多才な子がいるんだ、天才だか秀才だかわからないが、若い事はいい。嫉妬する。嫉妬するたび、自分の小ささ、女々しさに気付かされて、くだらねえと思う。
俺のよりどころにされているこの子がかわいそうだと他人事のように考えてしまう。そうだ、なんだかんだ言いつつ、俺はこの子が好きなんだ。世間の目を気にしながらも、自分の小ささに申し訳なく思いつつも、なまえが好きなんだ。
ふいになまえが俺を見上げた。その透き通るような綺麗なまなざしに怖いと感じた。どうしてこの子はここまで俺を好いてくれるのだろう。俺のやっている事を知ってもなお、そんなふうに見つめてくれるだろうか。
なまえの唇をなぞると、彼女は目を閉じた。どうしてここまで俺を信じてくれるのだろう。わからない、わかれない。そうしていると、訝しげになまえが目を開けた。
からかってる?と彼女は訊く。からかっていないよ、これまでだって一度も。これからも君をからかう事はないよ。きっとね。
でも俺はずるくて悪い大人だから、君の期待には応えてあげられないだろうな。
こどもの唇にキスをする。
驚きで目をぱちぱちさせるなまえが愛しい。
この子に手を出す事で、自分の過ちが消えるような、そんな気がするんだ。

20121103
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