おちなし

※下品である

だぁからね、私はこういう見解に至ったの!と、鼻息を荒くしたハンジさんは、捲し立てる。ドン!と力強くジョッキをテーブルに置くので、たくさん興奮している事がわかった。私はうんうんと良い子のように頷くばかりである。「ホラッ、なまえっ、飲みな飲みな」ボトルを差し出してくるので、仕方なくグラスを出すと、どぱぁ、と音がしそうなほどアルコールが投下された。案の定、溢れたアルコールは、テーブルに水溜まりを作る。ハンジさんはそれを見ると、「あっ、ごめんごめん、おかしいなぁ手元が狂って」と弁解した。酔ってる。完璧にこの人は酔っている。すがるように辺りを見渡せど、仲間たちはみな部屋へ帰ったのか、誰もいなかった。にっこにこ、と音がしそうな笑顔を見せてくるハンジさん。私は断りきれない自分に苦笑した。ハンジさんが酔うほど、嬉しい事があったというのは、私まで嬉しかった。




目が覚めると、ハンジさんが私の隣で寝ていた。至近距離にハンジさんの顔がある。寝息を立てるハンジさんは、隙があり、緊張した。なにより、セクシーだったので、どきどきする。
ハンジさんおはようございますとひとりごちてから、私は物凄い勢いで起き上がる。どうしてハンジさんと同じベッドで寝ているのか。そして自分が下着しか身に付けていないことに気付き、サアッと血の気が引く。これはもしかしなくても、私の考えていることが正しければ、つまり、そういうことだった。私の衣服はベッドの下に乱雑に置かれているし、ハンジさんの服も少し乱れていた。私は頭を抱える。そして、頭が激しい痛みを訴えていた。そういえば昨日の記憶がない。二日酔いをしていることから、断りきれずがぼがぼとお酒を飲んでしまったのだろう。それから、私たちは、大人であるから、そういう行為になってしまったのか。そんな酔った勢いでなんてあんまりだった。いやしかしもしかしたら、私から誘ったのかもしれない、ここが私の部屋というのが物語っている。
たとえハンジさんから誘われたとしても悪い気はしなかった。なぜなら、ハンジさんに好意を寄せているからである。ハンジさんの活き活きとした顔、巨人へのあくなき探求心、それらに惹かれていた。
もしそういう間違いが昨夜あったとして、私は受け入れるつもりだったが、ハンジさんはどうだろう。何より覚えていないことが最悪だった。出来れば覚えていたかった。それならば、一夜限りの行為でも構わなかった。
ハンジさんが起きたのか、「なまえ、おはよ」と目をこすっている。私は正座をして、ハンジさんに向く。

「あの私…」
「昨日のなまえはスゴかったね。あんなに激しかったけど大丈夫だった?」
「はっはげ…えっ」
「あっ、いいよいいよ。誰にも言わないから」

あれは人には見せられないからね、とハンジさんが一人納得をしたように頷いている。私は納得出来ていない。人には見せられない激しいこととはいったい。

「意外だったなぁ、なまえって大人しそうだったのに、入るとああなるんだなって」
「はっ入る!?」

思わず下腹部を押さえてしまった。ハンジさんは気にせず語る。それも枕を肘でついて、手を顎に伸せながら。情事後の恋人のようだった。そんな風に考える自分がとても恥ずかしい。

「まあ私も悪かったと思う。無理させ過ぎたね、ごめん」
「い、いえ…?」

全く心当たりがなかったので、なんと返事をすればいいか困る。人には見せられない激しいことをハンジさんは私に無理をさせたと言っているのか。

「どう、具合は」
「話しに聞いていたのとはだいぶ…」

お腹を撫でながら頭を捻らせる。初めては、痛いと聞いていたがいかんせん記憶にない。初めての記憶がないとはもはやギャグだった。

「あれ?意外と強いんだね。昨日は酷かったのに」
「そ、そんなにですか」

話を聞いているだけで恥ずかしく、このまま穴に入り深くまで沈んでいきたいと思った。

「ハンジさん私…」

ハンジさんは首を傾げながら、どうしたの?と微笑む。

「ハンジさんの事が好きなんです…」
「まったく好きじゃなさそうな言い方だけど」
「昨晩何があったか、わからないまま言うのも失礼だとわかっています。でも、昨夜のことを、一度きりのあやまちにはしたくないです」

口がふるえる。瞬きをしたら涙が溢れると思った。それくらい緊張と、恥ずかしさが混ざっている。

「なまえ、昨日のこと覚えていないって、ホント?」

しずかに頷くと、ハンジさんは気が抜けたように、枕に顔を伏せた。肩を震わせている。ハンジさんの動揺が手に伝わる、間違いない、これは私が逆に襲ってしまったんだ、とんでもない痴女だ。ごめんなさい、と謝ろうと口を開くより早く、ハンジさんが声を上げて笑い出す。私はぽかんと口を開けたまま、固まった。ハンジさんはそのまま仰向けになって、なお、ひいひいと涙を流してまで笑っている。わけがわからなかった。そしてハンジさんの笑い声が頭に響く。「なまえ、ナニを勘違いしていたの!」と、涙を拭いながら、ハンジさんはまた笑いだした。

「勘違いって、え?」
「私たちの間にはなにもなかったよ」
「だ、だって私、下着だけしか着てないですよ」
「あのね、なまえは吐いたんだよ」

そこに、とハンジさんは私の胸元を指差す。ごめんね、私も酔ってたみたいで、たくさん飲ませちゃったんだ。反省してる、とハンジさんはニヤニヤしながら語る。

「な、なんで私の部屋で、同じベッドで、寝ているんですか…」
「なまえが立てないって言うから、部屋まで連れて来たんだよ。部屋に入ったら、気持ち悪いって泣きながら吐き出しちゃってさ〜悲惨だったね」

私は頭を抱えた。好きなひとに、嘔吐する場面を見られたのである。

「悪いとは思ったけど、服を脱がさせてもらったよ。で、ベッドに運んだら、物凄い力で引きずりこまれてね、いや〜激しかったな」

結局私も疲れていたし、寝ちゃったんだ、とハンジさんはなんてことのやいように笑う。すみませんでした、と頭を下げると、気にしないで!と明るく言われる。それがまた、心を凍らせていく。つまり私たちのなかに間違いなどなかった。だとすれば、あるのは私の大いなる勘違いだけである。

「本当に…失礼なことを…考えてしまいました」
「気にしてないって」

恥ずかしい。顔を覆うと、ベッドが軋む音がして、ハンジさんがよしよし、なんて言いながら私を抱きしめる。

「勝手に盛り上がってすみません」
「なまえは、私が好きなんだよね」

ハンジさんはとうに流れてしまったと思っていた事を出してくるので驚く。

「はい。…忘れてください」
「えっ、どうして!そんなこと言わないでよ。嬉しいよ」
「でも」
「いつもありがとうね」

ハンジさんが静かに呟く。私は頷く。しかし感謝の言葉を伝えるのは私の方なのだ。
鼻を啜ると、ハンジさんは、子供みたいだね、と頭を撫でてくれる。

「なまえ、キスしていい?」
「え!?」

顔をあげると、ハンジさんは優しい目で私を見つめている。唐突だった。あまりの出来事に私は、どぎまぎするとか、そういうものより真っ先に、自分の口は汚い事に気付く。

「いや、あの、えっちょっと待ってください、歯を磨きます」
「えっなんで」
「だってお酒臭いだろうし、は、吐いたんですよね…駄目です、そんなの」
「私は気にしないけど」
「私は気にします」

残念だなあ、とハンジさんは眉を下げていうので、私は良心が痛む。ごめんなさい、いま洗ってきますと言う私の腕を掴んでそのまま引き寄せた。すきありっ、なんて可愛い声を出してハンジさんの脣と私の脣がくっ付く。状況を理解した私はぎゃあ、と可愛くない声を出して口元を抑える。いま、いま、なにを。

もらっちゃった、と語尾にハートでもつけたふうな口ぶりで、ハンジさんはウィンクをする。そのしぐさがあんまりにもイカしているから、あ〜もうほんと、なんでも、どうにでもなればいいなと私は考える事を諦めた。

2013〜20140119
収集が付かなくなったので〆

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -