ロマンスエンドロールにどうかよろしく

涼太とはいわゆる幼馴染みというもので、家も近い事から親同士仲が良かった。幼稚園から小学校と、それなりの距離で過ごしてきたと思う。
私は思う。涼太が幼馴染みでなければ、良かったと。彼が嫌いだから言うわけではない。むしろ幼馴染み以上の感情を持っているからこそ、幼馴染みでなければよかったと思ってしまう。なぜなら幼馴染みであるがゆえに彼は私を女として見ていないからだ。涼太は私の前で平気な顔して彼女の事を話す。振った話しとか告白された話しとか振られた話しとかを、わざわざ聞かされる私の身になって欲しかったが、彼は何処吹く風で、振られれば慰めてもらいたいようだし告白されたら女の子のことを事細かに話してくるし女子か(ジェンダ〜)と思ってしまう。好きな人の恋人事情など知りたくないのである。
涼太の彼女はみな美人だったり、かわいかったり、キセリョという人間の隣を歩くには相応しくお似合いだった。そんな完璧な女の子たちを何人も見てきたけれど、そのたびにお似合いだと感心したものである。幼い時から彼をかっこいい!と言う女の子たちはいたし、運動も出来るので体育の時間黄色い声が響いていた。飛躍的に増えたのは彼がモデルになってからだったはずだ。私はそのたび、少し寂しかった。彼が遠くへ行ってしまった気がしたから。そういうと何様だ、と言われてしまいそうだがただの幼なじみである。
そんな涼太はいま、私の部屋でくつろいでいる。それも私のベッドの上で!襲われても文句は言えないだろうと真顔になりながら、私は過ごす。だって皆さん(誰?)好きな人が私のベッドにいるんですよ!力があれば押し倒してしまうでしょう…。誘ってんのかこの人は!あーよかった理性があって。私はどきどき(?)しながら机に向かって勉強をする。涼太は人のベッドで携帯を操作しているらしい。自分の家でやれ。
「なまえ」
「なに」
名前を呼ばれたが、気にせずノートを見、手を動かす。
「彼女が浮気してたんだけど、どーしたらいいっスかね」
「えー…また浮気?」
涼太が恋人と別れる理由の大半は浮気だった。贔屓目なしに涼太を見ても、彼は気が効くし女の子への接し方が慣れている(おそらくデートだって完璧なのではないか。してもらったことがないので!わかりませんが!噂によるとよかったという声を聞くし)。これで心地よくほだされない女の子はいないはず…だが、彼はよく浮気される。イケメンなのに…。人は顔ではないのか。あっ性格とか?うーん…。以前、黄瀬って調子乗ってるよなーと同級生(しかも男子)が陰口を叩いているのを見た事がある。モテないのはドンマイ!と飴ちゃんをあげたら泣かれたので悪い事をしたと思う。でもね自分の好きな人が悪く言われてたら嫌な気分になるしお互い様だよね!はい。
「だいたい彼女たちの浮気相手って俺よりかっこよくない人なんだよね」と涼太は呟く。なんてことのないように。
「そういうセリフ女の子の前で言っちゃ駄目だよ!性格悪いと思われるから」あわてて言うと、なまえだって女の子じゃないっスか、と涼太は言う。女の子扱いされて少し嬉しくなるが、私は長年の付き合いがあり彼の自信たっぷりな発言や態度などをよく知っているので、今さら驚いたりはしないのだ。恐らく彼の自信満々なところ─事実鼻にかけていいと思う─が鼻についてしまう人もいるのかもしれないなと、ふと思う。「だから、振られちゃったんじゃないの…」と自分の口から出た独り言はやけに響いた。
はっと涼太を見ると人の布団にくるまっていた。芋虫か。
「ごめん涼太、そういうつもりじゃ」と手を休めてベッドに腰かける。布団は存外簡単にめくれた。横向きにまるまっているようで、彼の横顔が見える。
「涼太はたぶん悪くないよ…何があったか知らないけど…浮気するほうが悪いって…」
慰めの言葉って難しいなあ、と毎回思う。慰める前に貶してしまった気がするのは置いておく。可愛いかったり美人の女の子なんてやめて一般の私なんかどう?と訊いてやりたい。ふざけすぎてるし笑って元気になってくれないだろうか。
「そーっスかね。…そうだね」
「今の彼女さんが好きなら付き合っていていいと思うし、許せないなら別れればいいと思うよ」
「だよなぁ…よし別れよ」
行動力のはやさに舌を巻いていると、涼太はよーしと伸びをして、瞼を閉じた。なぜ寝る。と、いろいろ尋ねたい事はあるが…。
「好きじゃなかったの」
「相手が俺のこと好きじゃないならいいかなーって」
瞼を閉じたまま彼は語る。涼太はたくさんの女の子と付き合ってきたけれど、本気で恋愛をしていない気がしていた。今だってなぜ浮気をしていたのか問いただせたり好きなら別れようとしないはずで、は、…。云々。
「涼太ってちゃんと女の子好きなの?」
「えっ、好きっスよ」
でも…と涼太は目を開く。仰向けに寝ているから、天井を見ているのだろう。
「女の子たちは俺のこと本当に好きじゃないかも」
「元気出して、私は好きだよ」
「はは、ありがと」
ライクじゃなく、ラブで好きだよと言えたらどんなに楽だろう。しかし彼の隣に立つ人物は私ではないことは明白であった。



頬を叩く、乾いた音。
私は目を見開いて、ただその光景を見る事しか出来ない。昼休みの事だった。渡り廊下を歩きながらふと中庭を観ると、見慣れた金髪が見えたので立ち止まったのだが、よく見れば今の彼女と話をしているようで、盗み聞きはよくないなと立ち去ろうとした時に、彼女が涼太の頬を思い切り叩いたのだ。涼太、と声を出そうとして、喉がつまる。涼太も驚いた顔をして、自分を叩いた女の子―彼女―を見ていた。え?という顏をしている。
「叩いてごめんなさい。でも、涼太くん私の事好きじゃないなら、どうして付き合ったの!」
女の子は私の方へ向かって来たので気まずくなるが、女の子は私など眼中になく、渡り廊下を通って去っていく。残された涼太へ私は近付いた。涼太を見ると、静かに頬を撫でている。
「顔はダメだろ…」
彼は困った顔をしていた。私に気付くと困ったように笑って
「勝手じゃないスか? あのこたちだって俺の事を好きで告白してきたわけじゃないのに」
大きな体なのに、今は涼太が小さく見える。勝手なのは俺もだけど、と涼太がぽつりとつぶやく。そんな事ないよ、と言いたかったけれど口が出せなかった。何かが始まるわけでもなく、何かが終るわけでもなく。涼太はのろのろとした足取りで、保健室へ向かった。そして何事もなかったように授業を受けて(昼休みの出来事だったのだ)部活に出て、おそらく帰宅したのだろう。
数日後、涼太の隣にはまた綺麗な女の子が笑顔で歩いていた。それを見て私は少し安堵したし、やっぱり悲しかった。そういう役割が私にはないということ、それを実感したのである。




「なまえだったら、俺の隣にずっといてくれる?」
涼太が尋ねる。先の事なんて、わからないよ。私はそう言う。涼太は、そんなの俺だってわかんねーけど、ってながい睫毛を伏せる。綺麗な肌、柔らかそうな髪の毛。きらきらと、輝いている。
「私は居なくならないよ」
涼太は安心したように、笑った。いつものように私の部屋の私のベッドの上で寝転ぶ涼太だった。いま現在、涼太の隣はフリーであるが、私は何もできずにいる。
「でもなまえじゃ駄目なんだ」
「なにが」
「今は」
今?と尋ねる私に、涼太はにっこり笑う。その笑みの心意を尋ねる勇気さえ、私にはない。


タイトル「深爪」さま
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