そういうわけで

※少しグロテスク

 くだらない話をしない西くんは、低俗な男子とは違う。私はいつからかそう思っていた、西くんを神聖化していた。教室の隅で集団になって騒ぐ男子たちが嫌だった、子供っぽかったし生理的に無理だったのである。年頃の男の子だから、いわゆるエロ本など、持っていてもおかしくはないのに、西くんは持っていないと思った。カストリ雑誌なんて、読まないだろう。
しかし、西くんは変態だった。グロテスクなものに性的興奮を覚えるらしい。これを変態と言わずして何と呼べばいいだろう。私は困った。ガラガラと私のなかの西くんが崩れていった。そんな性癖なら、国民的アイドルのレイカでオナニーしていてほしかった、と矛盾する事を思う。とにかく何が駄目なのか?私にはその性癖を理解できないからである。勝手なものだなと思うけれど。西くんはオカシイ。周りの言う、アイツハオカシイと言っていた意味がわかった。だけど西くんと私、周り、どれが正しくてオカシイのだろうか。もしかしたら西くんの性癖が人間としてあるべき姿なのかもしれない、誰が線を決めているのかと言うと、自分自身なのだった。西くんはおかしくない。おかしくない。
猫の死体を見た。
おかしくない。おかしくない。
学校で神聖化していた彼と、こんなに接近する事になったのは、私が交通事故に遭ったからで不慮の事故に遭ったからでようするに私が死んでしまったからで、だから球体の部屋に送られたからで、そこで西くんと出逢ったからに他ならない。
私は西くんを知っていたけれど、彼は私を知らなかった。なんといっても、同じクラスだったのは最初の一年間だけだからだ。なにより西くんは周りと接点を持とうとしなかったし、きっとクラスメイトの名前を覚えていない。もしかしたら、担任の名前だって知ろうとしていないかもしれない。そういうくらい、学校という空間に無頓着だった。西くんだよね、と問いかけると、訝しげに見られて、しかし私が学校帰りで制服を着ていたから、西くんはアッと息を飲んで面倒な顔をしたのを今でも思い出せる。

「なンでオレの事知ッてンの」リーダーのような人に言われるがままスーツを着た後、外へ放り込まれた私の後ろから西くんが語りかけてきた。突然の事で驚くと、何もない空間から西くんが表れている。それ、どういう事?と訊きたかったけれど、それよりも西くんが話しかけてきてくれた事が嬉しくて、「一年の時…同じクラスだったから…」と弱々しい声が出てしまう。西くんはへーえ、とどうでもよさそうに相槌を打つ。なンて名前?西くんが私を見つめてくれる。私は意気揚揚として名前を教えた。なまえか、死なないよう頑張れば、と西くんはそれだけ言うと、また姿を消してしまう。私はその後、わけもわからない生き物のちに星人と知るものに腕を吹き飛ばされ、痛い思いを味わう事になる。帰還後、西くんは笑いながら「初陣にしてはジョーデキ」と褒められ、悪い気はしなかった。今まで話した事もなく、むしろ神聖化していた人からそんな風に言われたら、誰だって嬉しくなるはずだ。

学校からの帰宅中、西くんの姿をずっと前に見つけたので、なんとなく後を付いていると、彼は人気のない露路へ行き、何かを見付け、しゃがみこむ。影から覗くと、西くんは猫を撫でていた。可愛い、と思ったのもつかの間、西くんは立ち上がると、鞄からxガンを出すと、標準を猫に当てて、引き金を引く。私は驚きの余り、立ち尽くしていた。広がる血、肉。口元を手で押さえながら、西くんの横顔を見て私は絶句する。西くんの頬は紅潮していた。白い頬は、赤く、綺麗に染まっていて、なんて非現実的な光景なのだろう、私はそんな表情をする西くんを、美しいと思った。絵画の場面に遭遇しているかのような、景色だった。こんな狭く暗い露路で、西くんは綺麗に立っている。足元の血と肉と、それを見ながら西くんは綺麗に笑っている。こんなふうに、笑う人なのか、と呆気にとられていると、ふいに西くんがこっちを向く。私と目が合う。西くんが目を見開く。私はどうしていいかわらかず、気付けば泣いていた。

それからだった。西くんが私に手を出すようになったのは、それからだった。
最初はミッション中、私がヘマをして体の一部を失ったり怪我をしていると、西くんがステルスを解除してやってくる。それで、私の傷口をえぐっていく。私はそうされるたび、ごめんなさいごめんなさいとただ謝るしかなかった。西くんは私を見降ろしながら、なンで謝ッてンの?と問いかける。たしかに私はどうして謝っているのだろう、自分でわからなかった。けれど私に危害を加えると言う事は、私にどこか落ち度があるからだ。
それから西くんは私がヘマをしなくても急にやって来て、私と「遊ぶ」のである。ミッションはいいの、大丈夫なの、と心配すると高得点いねーし、と西くんはそっけなく言う。さっさと私を刻んだ後、西くんは星人をさがしに行くこともあるから、本当に暇つぶしのようなものだ。

猫の死体。
たとえば、西くんがああやって猫を×す事だって、もしかしたら私の知らないだけで、正しい行為なのかもしれないのだ。私の思慮が足りない。そうだよね…と問いかけると「そンなワケないじゃん」と西くんは鼻で笑った。あー確かにそうだ私はおかしかった。これもそれも、全部あの猫と西くんの情景のせいで、あれから私もおかしくなってしまった。あんなこと、常識ならしてはいけないことで、子供だってわかるけれど、私たちは本当に何も知らない子供だった。
西くんにえぐられながら、猫の死体を思い出しながら、私は気付く。私もあんな風にされたかった。だから私は幸せなのである。なんちゃって、西くん。私を抉る西くんの恍惚とした顔が、素敵だった。私はどっち側の人間なのだろう。少なくとも普通ではなかった。普通じゃなく、しかし変態である自覚も薄かった。私は変態ではない。西くんを前にしたら、みんなそうなる絶対。西くん。私はやっぱり西くんの手で死んでみたかった。「なまえッて、オカシイな」西くんは意地の悪い眼で微笑しながら、そう言ってくれる。

「私、西くんに、殺されたい」
「ハァ?」

西くんは呆れたような声を出す。それも、人を馬鹿にするような声音だ。私は西くんの人を馬鹿にするような声が大好きで、癪に障るけれど、大好きだった。

「やだよ。なまえ殺したッて、点数になンねーし」

西くんは、眉をひそめている。その表情を見て、私は、また何かに気付く。
私は痛みからくる涙を流しながら、あれ、もしかして、私は悲しんでいるのかもしれない、と地面に額を擦りつけながらぼんやりと思った。チャンチャン。

20130621、0623、0630

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