ベルが鳴り終わっても、俺達は座っていた。否、ベルが鳴り終わっても動かない俺をちらちら神楽が見ていた。あまりにも俺が悲しそうで辛そうだから、早く行かないと、という言葉を言えないのだ。
それでいい。そうしていて欲しい。乗り遅れてしまえば、行かなくて済むじゃないか。ずっと俺と神楽は一緒にいて、結婚して、子供も沢山つくって、じーちゃんばーちゃんになっても一緒にいて、ハッピーエンド。それじゃ駄目なのか?
神楽はちらちら見るのをやめ、半ば諦めたかのように言った。演技じみた悲しさを含んだ声で。
「行くアル。」
どうやら、神楽にとってハッピーエンドは俺といることではないらしい。
苛々するし、とてつもなく悲しい。泣くつもりはないのに、涙が出そうになる。こらえるのに必死だ。
神楽は真っ直ぐにベンチから立った。見上げると、その澄んだ瞳に涙が溜まる兆候すらなく、むしろしっかりとどこかを見つめていて、神楽の意志を表していた。
神楽、お前は、悲しくないんだねィ。
全身が締め付けられるような苦しみに陥った。
「じゃあ、ネ。」