なけなしの不幸せ
私は不幸な子供だった。
母は病死し、兄は出て行き、父は仕事で宇宙を飛び回っていた。
私は不幸な子供だった。
夜兎族だから、みんな私を恐れた。家族もいないのに、それ以上に孤独だった。
私は不幸な子供だった。
いるかもわからない神を恨んだ。灰色のそらを睨んでも、雨ばかりが私のからだを打った。
私は不幸な子供だった。
だから、陰鬱なこの星を飛び出した。幸せを求めて、自分の人生を見つけに行った。
私は不幸な子供だった。
それでも神は幸せを与えてはくれなかった。大人に夜兎族の力を利用された。私は闘いながら泣きそうになったけど、泣かなかった。負けたくなかった。
だけど。
それから、私は幸せな子供になった。
銀ちゃんが、新八が、助けてくれたから。久しぶりに、家族のような愛に触れた。銀ちゃんが私を撫でるてのひら、新八が私を呼ぶこえ、すべてが私の宝物になった。こんなに護りたいと思った人たちは初めてだった。こんなに護ってほしいと思った人たちは初めてだった。私はすごく嬉しかった。すごく幸せだった。否、"幸せだった"、じゃなくて、"幸せだ"。
──幸せは、自分で掴んだ。でも、掴むきっかけは、神がくれた。
神は、私が幸せになれるように、なけなしの不幸せを与えてくれたんだ。
今なら、言える。神さま、私に不幸せを与えてくれてありがとう。
青く澄み切ったそらを仰いだ。
「神楽、早く行くぞ。」
「今行くアル!」
「神楽ちゃんはそら見るのが好きだよね。」
11cmに提出。