真っ暗闇の夜道の中、あてもなくふらりふらりと歩いていた。もうどうでもいいや、そんなことしか思わない。今なら俺は死んでも悔いはない。ジジジ、と点滅する電柱の下にずるずると座りこんだ。


「あれ、総一郎くん」

げんなりした。いちばん今、会いたくない人だった。

「なァにしてんだ。汚いぜそこ、この前定春が大のほうしてたぜそこ」

「ほっといてくだせェ」


冷たく言い放つと、彼はくすりと笑い、神楽か、と俺の頭を撫でた。子供じゃねェんだ、そう言おうと思ったけれど、涙が止まらない俺はやはり子供だな。

「辛いか」

「辛ェよ」

「よかった、それじゃあまた会えるさ」

「会えないんでィ、もう」

「なんで」

「殴ろうとした、あいつを」

「在るよ、若いもんには間違いも」

間違いといって良いのか。ただ俺が逆ギレしただけだ。完全に悪いのは俺。

「神楽が言ってたぞ」

旦那が撫でていた手を止め、しゃがみこんで目を合わせた。覇気もやる気も微塵もないその瞳の何に神楽と志村は魅力を感じたのだ。

「『こんなこと言わなければ良かった』」

「……なんでだィ」

「『独占欲の強いあいつだから、絶対に行くなって言うと思った』

『わたしもそう言ってほしかった』

『必要だって、言ってほしかった』

…女っていきものはめんどくさいねえ、総一郎くん」


嗚呼、その通り。もう、ややこしくて素直じゃない。そんな気持ちを汲む方が難しいよ。

「住所、知ってるか」

「いや、神楽から送ってくれるって言ってたので」

「夜兎の星…神楽の生まれ故郷の住所だ」

差し出した紙切れは既に書かれたもので、旦那はいつから、こうなるのを予想していたのだろう。俺はそれを迷わず受け取った。

「とりあえず、手紙を書いてみます。あいつと会えなくなるのがいちばん辛いんでさァ」

「恋っつうのは、幾つになっても思い通りに行かねえもんだな」

旦那はからからと笑った。俺も悲しく笑った。そしてどちらからともなく別れた。



屯所まで一気に駆けた。今のこの、ただ神楽に対する愛してるの気持ちを手紙にのせなくてはならないと思った。

当然のように屯所の門は閉じていた。――その前に誰かいる。考える前に抱きしめた。


「ごめんね、」





fin....


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